とはいえ、相続財産が金融機関にあるお金だけなら、むしろラクかもしれない。さらに大変なのは不動産だ。

「自宅や農地などは名義変更しなくても使えるので、親の不動産と思っていたものが、祖父母や曽祖父母の名義のままになっているということはよくあります。この場合、名義人や関係者が死亡していても、相続をやり直さなければならず、とても大変になります」

 たとえば、父親名義だと思っていた自宅が祖父の名義だった場合、祖父から父への相続の手続きから始める必要がある。もちろん、亡き祖父の古い戸籍をすべて集めて父親のきょうだいなど相続人を特定し、承諾をもらってハンコを集めなければならない。父親以外の相続人が死亡していれば、その人の配偶者や子などが相続人となるため、代を重ねるほど関係者は増える。

「昔はきょうだいが多いこともあり、代を重ねるほど関係者が増えていき、100人を超えていた例もありました。一人でも同意しなければ、名義変更も売却もできません」

 いわゆる「原野商法」の被害に遭って買わされた価値のない山林なども、こうした権利関係が整理されないまま放置されていることが多い。山田さんはそう指摘する。手続きが面倒ならば放っておきたいという人もいるだろうが、名義変更や売却をしなければ代々ずっと残ってしまう。

「親が元気なうちに名義を確認し、必要ならば変更手続きをしてもらうことが理想です。ただ、高齢になるほど判断も実行も難しくなるので、家族のサポートは不可欠です」

 こうした相続の手続きの負担を軽減する新しい制度が、17年にスタートした。法定相続情報証明制度だ。相続による不動産の名義変更や、金融機関に預けてある故人のお金を払い戻す際などに使える。

「これまで、金融機関や不動産登記の手続きでは、そのつど戸籍謄本類一式を持参する必要がありました。新制度では提出した相続人関係図を戸籍類と照らし合わせてチェックして、無料で証明書を交付してくれます。その証明書を提出すれば済むようになります」

 戸籍の枚数が多い人ほど金融機関などでのチェックも煩雑になり、時間もかかる。証明書をあらかじめ取っておくと、手続きがスムーズに進みそうだ。(ファイナンシャルプランナー/ライター・森田悦子)

週刊朝日  2018年12月7日号

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