

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「流行語大賞」。
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今年も新語・流行語大賞の発表が近づいてきた。落語家が落語の登場人物に言わせていれば、それは間違いなく流行語!と言っても過言ではない。私も『横丁のご隠居さん』に「じぇじぇじぇ」とか「今でしょ!」とか言わせた経験有り。
そもそも『一般人が生活の中においてその場のノリで口にする』くらいじゃないと流行語とは言えまい。だから“あえて”落語の世界の住人に言わせてみる。お客さんの反応があれば立派な流行語。それを測るために我々は“あえて”邪道な真似をする。安易に笑いが欲しい訳ではない。でも落語の神様がいたらとりあえず謝ります。ごめんね、ごめんねー。
寄席のお客さんは男女・年齢・職業・常連・一見さん……いろんな人が入り交じってるので、いいリトマス試験紙なのです。世の流行に敏感すぎず、かといって鈍すぎでもなく……土曜夜の新宿末廣亭のお客様を流行語大賞の審査員にしたほうがよいのではないかな。誰かユーキャンの担当者に教えてあげて。
今年の流行語大賞のノミネート語は30。そもそも30も流行った言葉ってあったっけ? 無理矢理じゃないの? じゃあこっちも無理を承知。ノミネートされた言葉をつかって、横丁の隠居さんと八っつぁんに会話させてみよう。
八「隠居さん、こんちは」隠「またひょっこりはんと現れたな。今、私はもぐもぐタイム中でね……」八「出た! ご飯論法! 早く食っちゃえ!」隠「時短ハラスメントにもほどがあるぞ」八「でも隠居さんは働いてもないのにどうやって飯食ってんの?」隠「まぁダークウェブで仮想通貨のやりとりをな……儲かって『GAFA! GAFA!』と笑いが止まらないよ。お前さんの仕事はどうだ?」八「もう高プロ制度のせいで、半端ないって! こないだなんかブラックアウトしそうだったんで、ちょっと計画運休ですよ」隠「君(たち)はどう生き(て)るか?」八「基本スーパーボランティア。今年は災害級の暑さで、グレイヘアになっちゃって、あおり運転までされてもう大変……」隠「ボーっと生きてんじゃねえよ! ちゃんと(ドライブレコーダーの)カメラを止めるなよ」八「当たり前ですよ。逃げる相手に、後ろから悪質タックル!」隠「お前、ダサかっこいいなぁ。そんなところが好きだよ、八ったん!」八「え? ひょっとしておっさんずラブ?」隠「いや、どちらかと言うと奈良判定だ……私のこと、どう思う?」八「だって……隠居さん、奥さんいるじゃない?」隠「……イッツ・ア・翔タイムだよ……」八「隠居さん……#MeToo」
これから二人の関係はまるで金足農旋風の勢い。アツアツな二人の様子をTikTokに載せてみると、なんと世界的テニスプレーヤーからメッセージが。読んでみると内容はやはりなおみ節全開だったとさ……。
とここまで書いたものの、『GAFA』をはじめ、よく分からない言葉をテキトーに誤魔化したのは首相案件でお願いします。またこの試みは以前一度やっていて、単行本『いちのすけのまくら』にも収録済み。よかったら買ってください。そだねー!
追記 『GAFA』についてGoogleで調べてみたら、なんかそのまんますぎて恥ずかしくなったそだねー!
※週刊朝日 2018年12月7日号