
本書は、アメリカの革新的なジャズ・コンポーザー、ピアニスト、オルガン奏者として、またバンド・リーダー、実践主義者として知られるカーラ・ブレイの注目すべき音楽と、その影響力を初めて包括的に論じた文献である。
著者エイミー・C.・ビールは、ジャズと実験音楽の歴史に新時代を画した50年に及ぶカーラの多様な創作活動を入念に考察し、このアメリカ音楽における重要人物に待ちに待ったスポットライトを当てる。
カーラ・ブレイは1968年に、彼女自身が作曲したジャズ・オペラ『エスカレイター・オーヴァー・ザ・ヒル』を、元クリーム及び元ライフタイムのベーシスト、ジャック・ブルース、異色のトランペッター、ドン・チェリー、イギリスが誇るキーボード奏者、ロバート・ワイアットといった前衛的なアーティストや、ピンク・フロイドのドラマー、ニック・メイソン等とともにレコーディングし、一躍名を馳せる。そして、60年代のフリー・ジャズ・ムーヴメントを象徴する存在になった。彼女は以後、親しみやすい伝統的な曲想から商業的な成功の見込めないアヴァンギャルドにいたるまで、さまざまなスタイルのジャズを巧みに表現してきた。
本書は、そうしたカーラの類いまれな多様性と、パロディー、引用楽節、あるいは反駁を用いる独自の手法を詳述し、彼女がキャリアを通して練り上げてきた表現形式を検証しつつ、その実験主義の統合的かつ文化的な重要性を強調する。
カーラはまた、自主レーベル、ワット・レコードをマイク・マントラー(当時の夫であり、ジャズ・トランペッター)と共同で設立し、経営に携わってきた。さらには、販売会社として、ニュー・ミュージック・ディストリビューション・サーヴィスを共同で設立する。彼女は、ミュージシャンシップと経営手腕を同様に発揮し、アーティストが所有するレコード・レーベルの発展において、パイオニアの役割を果たした。
著者ビールは、カーラがアーティストであるばかりか、利益至上主義の大企業に支配されたコマーシャルなジャズ界の中で、独創的な音楽性の維持と、マイナーなレコード・レーベルのシビアな経営管理を両立させてきた実践主義者であることをも明らかにする。
カーラの音楽人生に踏み込んだ本書の探求は、今後の「カーラ・ブレイ考」を促すことになるだろう。
●著者紹介
エイミー・C.・ビールは、カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校の音楽学部の教授であり、『ニュー・ミュージック、ニュー・アライズ:アメリカン・エクスペリメンタル・ミュージック・イン・ウエスト・ジャーマニー・フロム・ザ・ゼロウ・アワー・トゥ・リユーニフィケイション』の著者でもある。