放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「クーデター」について。
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10年以上前のことだし、その番組はとっくに終わっているから、もう時効だろう。僕が構成をやっていた番組で、小さなクーデターがあった。
番組のディレクターAさん。とても才能があった。その人がいたから番組は成立しているとAさん本人も言っていたし、みんなそう思っていた。ただ、一つ問題があった。とてつもなくわがまま。時折、スタッフルームに恋人を連れてきてしまうのだ。週末は恋人とイチャイチャしながら、作業をする。ADさんやスタッフはそれに付き合わなければいけない。また、その恋人が面倒なやつで、食べたいものを全てADに買いに行かせる。それどころか、棚が欲しいと言ったら、ADさんがDIYよろしく、手作りで作らされたりもしたのだ。
ディレクターのAさん自身もすごく気分屋で、ヒステリック。最初はみな我慢していたが、どんどん疲弊していく。Aさんが理由で辞めていくものもいた。Aさんの上司も、まったく気づいてないわけじゃなかったと思う。見て見ぬフリをしていたのだ。番組からAさんが抜けたら成立しないと思っていたから。
Aさんが僕に嫌な態度を取ることはなかったが、ADさんが本当にかわいそうだと思った。
これは番組が続く限り、永遠に続くのだと思った。
だが、ある日、立ち上がった一人のAD。社員でもありチーフADでもあった彼は、全ADに聞き取りをした。Aさんにどんなことをされたのかをノートにまとめた。そのチーフADはバラエティーが大好きだった。現場が大好きだった。だけど、このままAさんのわがままで自分の下のADがコキ使われるのが耐えられない。そう思った彼は、人事部に部署の異動願を出した。それと同時に、Aさんのやってきたことをまとめたノートを上層部に提出した。
彼は言った。「自分が刺し違えて、あの人を番組から外します」と。そのときチーフADは25歳だったと思う。25歳の男が覚悟を決めて、刺し違えたのだ。