

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「焦る」。
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孔子様曰く、「四十にして惑わず」だそうな。私も年が明けたら、すぐ四十一。あと2カ月でその境地へたどり着けるのか。時間がない。焦る。惑う。そして頭を抱える。
先日、日々の疲れを癒やそうと行きつけの整体へ。うつぶせ状態で施術されていると、お尻の割れ目にタラリと冷たいものを感じた。
「やっちゃったか……」
飲みすぎた翌日は午前中に7、8回はトイレへ行く。私はおなかがユルいのだ。“決壊”したかもしれない。おなかはユルいが、鼓動は速い。惑う。焦る。
その日は女性の整体師さん。男ならいいって訳じゃないが、初対面の異性に己のう○この臭いを嗅がれるのはできれば避けたい。腐っても芸人、漏らしても噺家だ。それくらいの色気は持っていたい。施術台の上で、うつぶせ寝で、見知らぬ異性と二人、密室のなかで脱糞(仮)。かなりのピンチである。落ち着け、俺(40)。念のため括約筋を締めながら「汗か? う○こか? う○こか? 汗か?」と、ゆっくりと自問自答。経験上、こんなときはたいてい汗なのだ。「なーんだ、汗か!」ってことはたびたびだ。月に4、5回。多いな。が、今回は整体師さんが腰を押した弾みでおならが出たような……気がした。うとうとしてたので「気がした」としか言えないが、その瞬間に冷たいものが流れたような……気がするのだ。いや、それは現に今、尻の狭間をつたわって、ひんやりと「ボクハココニイルヨ」と主張している。「気がする」ではない。おならとともに参上するならば、冷たいソレはまぎれもなく『彼奴』ではないか?
さっきまで「だいぶ張ってますねー!」だのおしゃべりしていた整体師さんが急に無口に。嗅いだ? もう嗅いだか? 臭いは私の鼻までは届いていないが、条件はほぼ揃いつつある。
「背中もだいぶきてますねー」