教員になるべく大学に入学したが、ジャズ・ピアニストに憧れ、卒業後はクラブで弾き語りをし、酔客がリクエストする演歌や歌謡曲にも応じた。そんなエピソードを知れば、これまでのアルバムで彼女が歌謡曲をカヴァーしてきた理由にも大いに納得がいく。
本作を制作するにあたり、浜田はライヴで歌ってきた曲など二十数曲をリストアップ。新たな所属先のレーベルからの提案もあって、11曲の収録を決めた。録音は浜田のピアノの弾き語りに、主に伊藤大地(ドラムス)、加瀬達(ベース)がサポート。ギターに鈴木茂を迎えている他、制作の久保田もギターを担当。編曲のクレジットはないが、サックスにブラジル出身で現在は東京を拠点にしているグスターヴォ・アナグレートを起用し、インドネシアでのダビング録音もあるなど、久保田のアイデアが大いに反映されているようだ。
そんな本作での編曲、彼女の歌いぶりは、これまでの彼女のカヴァー曲への取り組みとはまったく異なる。
例えば幕開けの「東京ドドンパ娘」。フィリピン・マンボを下敷きに日本で生まれたドドンパは、渡辺マリの歌でヒットした。本作ではニューオーリンズのセカンドライン的なニュアンスを採り入れたブラス・アレンジ、鈴木茂のスライド・ギターをフィーチャー。“ドドンパ”の“ンパ”のアクセントもほどほどの加減で、浜田の歌も、バタ臭くて濃い渡辺マリとは対照的に、明るく軽快で伸びやかだ。
「ブルー・ライト・ヨコハマ」は、ストトーンのドラムやエレキ歌謡風のギターによるオリジナル編曲から一転、4ビートのスウィンギーなジャズ風に。
“小舟のように わたしはゆれて ゆれて あなたの~”という歌詞を、浜田は大人の色気を交えて歌いこなす。これまでにはなかったことだ!
「ウナ・セラ・ディ東京」では八木美楠子のフルート・アンサンブルのアレンジが光る。ラウンジ風のピアノをバックに、浜田は妖しい魅力を秘めた艶っぽい歌を聴かせる。
石原裕次郎のヒット曲「夜霧よ今夜も有難う」。エコーたっぷりながら丹念なオリジナルの歌いぶりを踏襲。歌詞、メロディーの的確な表現は、浜田の歌のうまさを物語る。もっともその分、“忍ぶ恋”の危うさ、うしろめたさがちょっと曖昧かも?