オリジナルのママス&パパス風のカリフォルニア・テイストから、ピアノやフルート・アンサンブルによる室内楽風をざっくばらんにした「愛のさざなみ」。甘く、ねだるような浜田の歌いぶりは悩殺的。作曲者のハマクラこと浜口庫之助の「黄色いさくらんぼ」に倣ってのことなのか。
テレサ・テンのヒットを取り上げた「つぐない」。人に別れをつげながら、どこか未練の残る心情を歌った曲だが、オルガンにパーカッションを主体にしたアレンジで、インドネシアのスーリンがフィーチャーされたワールド・ミュージック的展開。
解説氏は「台湾を経由してインドネシアまでつながる昭和史の複雑な記憶が揺らめいている」としているが、望郷の哀歌的なニュアンスもくみとれる。もっとも、テレサがインドネシア・パスポート所持で国外退去になった一件からすれば皮肉な展開だが、それを知ってか知らずか。
「風は海から」は、昭和のビッグな2人の大女優、原節子と高峰秀子が共演したマキノ正博(のちに雅弘)の『阿片戦争』の主題歌。西条八十作詞、服部良一作曲という強力なラインアップ。淡々とした歌いぶりこそ、テレサに通じるものがある。
「ヨコハマ・ホンキー・トンキー・ブルース」は、藤竜也のオリジナルの歌詞を起用しながら、サザン・ソウル風味を交えたブルース・アレンジをバックに、ちょい、はすっぱなところをのぞかせるのがご愛敬。
「夕陽が泣いている」では、ピアノなどラテン風味の演奏にインド的なシンバルが入りまじるエキゾティックな展開。黛ジュンのエレキ歌謡的解釈による明快な歌いぶりで、リクツ抜きで歌うことの楽しさがひしひしと伝わってくる。以上2曲ではゲスト参加の鈴木茂のギターが光る。
「プカプカ」は前口上なしの一般的ヴァージョンで。浜田はヤサグレ感を確信的にさりげなく漂わせる。
締めくくりは美空ひばりが歌った反戦歌の「一本の鉛筆」をピアノの弾き語りを自分流の歌で。
浜田にとって、歌の原点とも言える昭和歌謡への取り組みによる本作は、昭和歌謡への熱い思いだけでなく、ヴォーカリストとしての幅の広さ、味わい深さ、歌への新たな取り組みへの意欲が汲み取れる力作だ。(音楽評論家・小倉エージ)