小室が詞、曲を書いた「長い夢」は80年に発表したアルバムの表題曲のカヴァー。“世の中のひずみに落胆し始め、せめて今立っているところから逃げ出したい”という思いから書いた船出の歌だった。“時代はさらに悪化し、逃げ出したい気持ちもさらに募るが、逃げ出すわけにもいかない”と触れている。
「熱い風」では“俺たちの時代だとひたすらに信じてどこまでも走った”と60年代の青春を回顧する。
「こん・りん・ざい」では、戦争だけは金輪際と歌われるが、曲調はメロディックで、穏やかで優雅なコーラスによるユーモラスな歌いぶり。クスッと笑いがこみ上げてくる皮肉まじりの“プロテストソング”であり、六文銭の本領を発揮した曲だ。
「それは遠くの街」「お葬式が行く」など、六文銭誕生のきっかけになった劇作家の別役実の戯曲への提供曲や大岡信の詩、小室作曲による「わたしは月にはいかないだろう」などの再録曲もある。ぜひとも耳を傾けてほしい佳作である。(音楽評論家・小倉エージ)