
●音楽と共に生きる:ラルフ・エリスンのメッセージ
ラルフ・エリスン(1914-1994)は、将来性のあるミュージシャンだった。だが、T.S.エリオット、アーネスト・ヘミングウェイ、ガートルード・スタイン、ジェイムズ・ジョイス等の詩や小説に傾倒し、文筆業に携わるようになった。
彼はやがて、半自伝的小説『インヴィジブル・マン(見えない人間)』(1952年)の著者として、世界的に名を成した。また、ジャズ専門の独創的で鋭敏な音楽評論家として、同分野の研究者や愛好者に知られている。
本書『リヴィング・ウィズ・ミュージック』は、エリスンの音楽に関するエッセイをまとめたアンソロジーである。1954年12月11日付けのサタディ・レヴューへの寄稿が、音楽をテーマにした初のエッセイとなる。彼はここで、フラメンコ、スパニッシュ・ダンス・ミュージックが根源的な意味においてブルースに類似するという自説を記している。
本書には他に、エリスンのインタヴューや書簡、さらには『インヴィジブル・マン』や未完に終わった『ジューンティーンス』からの抜粋、これまで刊行されなかった作品を含めて、小説も収められている。
ラルフ・エリスンの音楽評論を集大成した『リヴィング・ウィズ・ミュージック』は、ジャズ書の傑作であり、20世紀中期から後期のアメリカにおける芸術及び芸術家の意図、"音楽と共に生きる"ことの意義に関して、格調と見識のある文体で著した啓蒙書でもある。
●Introduction:Jazz Shapes (本文より抜粋)
「黒人の人生は多くの場合、謎のままだ。おそらくズート・スーツが、深い政治的な意味を隠すのだろう。おそらくリンディホップの対の熱狂が、大きな潜在能力への手がかりを隠すのだろう。黒人の指導者が、この謎を解いてくれればと思う」(1943)
「アメリカ黒人の流儀が存在しなければ、我々(アメリカ)の冗談やほら話、あるいはスポーツでさえ、テンポの急激な変化、衝撃、予想外の転換(すべてはジャズのスタイル)に欠けることだろう。それらは我々に、未知の世界があることを知らしめる。そしてまた、人生はままならないものの、勝負を決する秘訣が方向転換にあることをも知らしめる」(1970)
「芸術表現に関する私の本質的な感性は音楽的であり、基本的に、私の文筆に対する直感的なアプローチは、サウンドを通して、月並な表現とは何か、意図的な感性の置換だろうか? それは、フィクションの条件だと思う。私の場合、サウンドが景色になり、景色がサウンドになる」(1974)
(訳:中山啓子)