50代を迎えて、堤真一さんは“残された時間”について考えるようになった。
「20~30代の頃は、“何とかこの道で食っていかなきゃ”と必死で。精神的には追いつめられていても、時間には余裕があったから、仲間と酒を飲んでくだを巻く、みたいなことも楽しかったんです(笑)。でも、親父が60で死んでしまったせいか、僕も50代に突入してすぐ、“死”を身近に感じるようになった。限られた時間を大切にしたいので、最近は、休みのときは、なるべく家族と一緒の時間を過ごすようにしています」
とはいえ、こと“芝居”に関しては、若い頃に思い描いていた50代のイメージに追いつけていないことに落胆する日々が続くのだとか。
「過激な時代を生きて、僕らよりもっと演劇の力を信じている先輩方は、昔から堂々としていました。一緒の舞台に立っても、ピンチのときの対処の仕方とか、アドリブのきかせ方などは、見ていて惚れ惚れします(笑)。舞台では、自分の未熟さを痛感することも多いし、まだ学ぶことも山ほどある。1~2カ月をかけて一つの作品に取り組んでいく中での学びの多さたるや! ヒリヒリするような経験もありますが、僕が芝居をしていく上では、やはりコンスタントに舞台に立って、学び続けることが必要なんだと思います」
堤さんが主演する舞台「民衆の敵」は、温泉の発見に沸くノルウェーの港町が舞台。トマス医師は、街の資本となる温泉が、工場排水に汚染されている事実を突き止め、告発を試みる。正義とは何か。100年以上前にイプセンが描いた社会は、現代にも通じる数々の問題をあぶり出す。