票にならなくても「やることはやる」姿勢で臨んでください (c)朝日新聞社 @@写禁
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 7月から交渉参加することが正式に決まったTPP(環太平洋経済連携協定)。これまでは関税や農業の面から語られることが多かったが、実は大きな裏のテーマがあるのだという。

「米国の最大の狙いは中国を抑え込み、いかに自国の知的財産権を守るかです」

 こう話すのは、『TPP 知財戦争の始まり』(草思社)を著した日米関係史が専門の歴史家、渡辺惣樹(そうき)氏(58)だ。知財はTPPの21の交渉分野に含まれる。

「オバマ大統領は『雇用増大』を約束して当選し、実現に向け知財に目を付けた。ビジネスソフトや偽ブランド品、海賊版ゲームなど、中国だけで被害額は年間4兆円に上る。ここの防止システムをつくれば期待に応えられると考えた」と渡辺氏。そのため米国では超党派で国内法を整え、政策における知財の優先度を上げ、省庁を横断する強力なポストも新設したのだという。

「まず知財侵害している製品を政府調達から締め出して、違法ソフトなどを使っている中国製品を納入できなくする。TPPを利用し参加国に同じルールを適用させれば、中国も早急に国内対策を練らなくてはならなくなると読んだ」(同)

 一方の日本。安倍晋三首相(58)が再三国会で知財の重要性について強調はしているものの、「TPPでは農業対策など『守るもの』についての比重が高く、知財は後回し」(官邸スタッフの一人)という。

 海賊版による被害総額も「政府として正確な数字は把握していない」(内閣官房)。特許庁が1千億円超としているほか、外務省はアニメの被害額を中国だけで2400億円とし、ゲームについては業界団体が6年間で2兆円とするなどバラバラ。ちなみに渡辺氏は「被害額は中国だけで少なくともl.5兆円。日中間の貿易額を考えると米国の被害額を上回る4兆円超でもおかしくない」という。

 安倍政権は成長戦略の柱として、放送番組などコンテンツの輸出を中心とした「クール・ジャパン」戦略を推進中。500億円の予算を計上しているが、「海外で海賊版をつくられたら意味がない。知財対策にもっと力を入れないと『ザル政策』になる」(前出の官邸スタッフ)。

 より日本の利益に即したルールづくりが、TPP参加の目的のはず。しかしどうも危機感が欠けている。政府を後押しするはずの自民党でも知財の人気はさっぱりだ。年明けに政務調査会のもとに「知的財産戦略調査会」(会長・保岡興治元法相)を設置。週1度、海賊版に悲鳴を上げる業界団体からヒアリングをしているが、ひな壇に調査会の幹部数人が座るほか、議員席は閑古鳥が鳴いている。

「知財は日本がこれから食っていける数少ない分野なんだが、票にならないとみんな集まらないねえ……」(調査会幹部)

 しかし、同じ政調でも農林部会などは毎回盛況。まず票が見えるところに吸い寄せられるのは、いくら政党支持率が高くても不変の議員行動のようで……。

週刊朝日 2013年4月26日号