春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔 師いわく』(小学館)絶賛発売中です。人生相談の本です!
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(イラスト・もりいくすお)

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「快挙」。

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 辞書によれば『快挙』とは「胸のスッとするような素晴らしい行為」だそうだ。

 私はちょっと勘違いしていた。「前人未到!」とか「史上最年少!」とか「何十年ぶり!」みたいな、スペシャルな付加価値がなければ『快挙』じゃないと思ってた。「胸のスッとするような」という表現がちょっと曖昧だけど、じゃなんだ……『快挙』はその辺にけっこう転がってるじゃないの。Suicaの残額が777円になるのは自分的にはかなり胸がスッとして、素晴らしいのでこれは『快挙』でいいのか? 小さいかな?

 9月に山形に仕事に行きました。山形の秋といえば、芋煮です。昨年の今頃も同じ仕事に伺ったのですが、打ち上げで世話人さんが「来年は一之輔さんに『本当の芋煮』を食べてもらいたい」と笑っていました。

 今年は落語会当日、山形市内では『日本一の芋煮会フェスティバル』が催されるようす。直径6.5メートルの鍋に数トンの食材を入れて、特注のパワーショベルで、数万人分の芋煮を作るという……常軌を逸したイベント。毎年大変な人出だそうです。世話人さんに「被っちゃいましたねー!」と言うと「へ? 何がです?」だって。「いや、ほら、日本一の芋煮……」「あー、今日でしたか?」と別段気にもしていません。「お客さんとられちゃうんじゃないですか?」「ははは、地元の人は行きませんよ! 並んでまで食べるもんじゃないですわ!」。そうなんだ? 『本当の芋煮』とか言うから、一杯くらい誰かが持ってきて、楽屋に置いてあるとか……期待したのになぁ……まぁいいか。

 世話人さんの言う通り、落語会は芋煮フェスの影響はまるでなく大入り満員。高座から「みんな、芋煮フェス行かなくていーの?」と聞けば「うちでやるからいーの」とお婆さんが叫びます。うなずく他のお客さん。みな気高いイモニストです。

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