ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「ファン」を取り上げる。
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アイドルは『世間』の関心や好意によって生まれるものですが、その根幹を支えているのはいつの時代も『ファン』と呼ばれる常客・太客です。そんなファンたちの熱量は『親衛隊』や『追っかけ』といった集合組織となり、時に歴史や世間の記憶すら変えることがあります。中でも有名なのが『全国キャンディーズ連盟(通称:全キャン連)』です。公式ファンクラブとは別団体であるにもかかわらず、大規模コンサートを主催したり、ラストシングル『微笑がえし』を購買運動によってチャート1位に輝かせたり、「消費者側がビジネスを主導する側になり得る」ことを初めて実証したファン組織と言われています。彼らをきっかけに、様々な業界で『公式ファンクラブ』の存在が強化されるようになったとか。
会員制を敷き、商品(プロダクト)のステータスを高めるファンクラブは、ビジネスメソッドとして大変有効です。しかし同時に、あまり閉鎖的になり過ぎると大衆性が失われ、市場や顧客拡大の足を引っ張る危険性も孕んでいます。いわゆる『ザ・国民的アイドル』が生まれにくくなっている背景には、ファンクラブシステムの成熟も要因のひとつなのではないでしょうか。
さらにそこへ追い討ちをかけるのがSNSの発達。今や芸能・スポーツ・アニメ・政治に至るまで、ネット上におけるファンの結束力や情報共有力は凄まじいものがあり、そこに渦巻く熱量は、昔以上に濃密です。相互の意思が見えるという点では、とても民主的だと言えるでしょう。しかし拡散され共有された『(ファンの)民意』は、いつの間にか『総意』として定着し、暗黙の秩序(ルール)や様式(スタイル)が出来上がってしまう。そして、その不文律に同調しない者は、『似非』だの『にわか』だの『裏切り者』だのとレッテルを貼られ、何かと排除されがちな傾向があるような気がしてならないのです。