ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ソーシャルメディアにおける削除基準の不透明さが問題視されている現状を解説する。
* * *
テクノロジー企業は政治的に偏向しているのではないか──。社会的分断が進む米国で、インターネットサービスの政治的中立性をめぐる議論が過熱している。
ツイッターやフェイスブックをはじめとするソーシャルメディアは、2016年の米大統領選以降、フェイクニュースやヘイトスピーチ、暴力の扇動やロシアによる選挙干渉を野放しにしてきたとして、強い非難を浴びてきた。
当初、投稿内容には介入しないという姿勢を示していたソーシャルメディア各社も、批判に押され対策に乗り出した。ヘイトスピーチを含む投稿を削除したり、そのような投稿を繰り返すオルタナ右翼や白人至上主義者らのアカウントを凍結したりしてきた。
この取り組みはプラットフォームの健全化を目指すものであったが、右派からは「保守層の主張を狙い撃ちにした検閲だ」との批判の声が上がっていた。その急先鋒(きゅうせんぽう)のトランプ大統領は、こんな批判を繰り返している。(ただし、その証拠が示されたことはない)
「ツイッターが有力共和党員らを『シャドーバン(検索結果から特定ユーザーのツイートをひそかに非表示にすること)』している」「ソーシャルメディアは共和党員・保守層の主張を差別している」「グーグルで『Trump News』と検索すると96%が国内左翼メディアで、非常に危険だ。グーグルをはじめとする企業は保守層の声を抑圧し、良い情報やニュースを隠している」
これに対し、ソーシャルメディア各社は、政治思想でユーザーを差別することはなく、利用規約に違反しているかどうかだけで判断していると反論していた。
この論争は、極右陰謀論サイト「インフォウォーズ」を運営するアレックス・ジョーンズ氏の処遇をめぐり、さらにヒートアップした。トランプ大統領の熱心な支持者として知られるジョーンズ氏は、過激な陰謀論や差別的な言動で注目を集めてきた。影響力も大きく、ツイッターのフォロワー数はサイトのアカウントも含めると130万人以上、ユーチューブのチャンネル登録者も240万人を超える。
しかし、過激なヘイトスピーチが問題視され、8月6日までにアップルやフェイスブック、ユーチューブが相次いで投稿やアカウントの削除に踏み切った。
だがツイッターはこの動きに追従せず、ジョーンズ氏のアカウントは凍結しなかった。この判断に左派からの批判が高まると、わずか1週間でアカウントの一時停止を発表し、さらに9月6日には永久凍結を発表した。当然、右派からは政治的偏向だと批判され、左派からも一貫性のない対応を疑問視された。
ソーシャルメディア各社が問題としているのは、政治的な主張ではなく、虚偽情報や陰謀論に基づく度を越したヘイトスピーチにあるのだろう。だが、場当たり的で一貫性を欠く判断をし、そのプロセスも不透明なので、右派からも左派からも不信感を招いている。
いま、求められているのは、一貫性と客観性を持った情報発信ルールの制定と、その厳格な運用である。
※週刊朝日 2018年9月28日号