ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。ネット掲示板に「陰謀論」を投稿し続ける謎の人物「Q」の信奉者たちの影響力について解説する。
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11月の米中間選挙に向け、トランプ大統領は全米各地で遊説を続けている。ここ最近、その会場には「Q」という文字がプリントされたTシャツを着たり、「我々はQだ」というプラカードを掲げる支持者が目立ち始めている。彼らは「匿名のQ」を意味する「Qアノン(QAnon)」だとして、昨年10月ごろから匿名掲示板「8chan」に書き込みを続ける謎の人物「Q」を信奉する人々だ。
Qは政府高官を自称し、政府のインサイダー情報としてさまざまな陰謀論を流している。米国を含め世界は陰の政府(ディープ・ステート)と呼ばれるエリート層に支配されており、彼らに戦いを挑むトランプ大統領こそ真の救世主であるなどと主張しているのだ。
Qが説く陰謀論は例えばこんなものだ。
「クリントン、ブッシュ、オバマら歴代大統領は陰の政府の傀儡にすぎず、彼らに戦いを挑んだケネディは暗殺され、レーガンは銃撃された」
「メディアは陰の政府の指示を受けてトランプ大統領を攻撃している」
「ムラー特別検察官は、実はトランプ大統領と協力関係にあり、本当の捜査対象は陰の政府と繋がっている米民主党や(民主党系の)ハリウッド関係者だ」
「民主党らエリート層は児童売買シンジケートを組織している」
ほとんどがありきたりな陰謀論なのだが、トランプ大統領を「善なる存在」として正当化し、その批判者や政敵を「真の悪」とみなす点で一貫している。
Qの書き込みの特徴は「断言しない」ことにある。陰謀論をもっともらしくほのめかす一方で、それを裏付ける証拠は提示しない。代わりに示されるのは、陰謀論に関連する一連の質問や謎めいた暗号文といった「真実にたどり着く」ためのヒントだけ。