東京のような、歯科医院が過剰な地域で、歯科医師たちが「コンビニの数より多い」現状をどう思っているかですが、これは個々の状況によって違います。

 当たり前ですが、過当競争の中でも自分の理想とする診療ができ、経営もうまくいっているところは、「どこ吹く風」です。そんな歯科医院では、院長が歯科医という仕事に誇りを持ち、子どもにも後を継がせているところが多いです。

 一方、経営の苦しい歯科医院の悩みは深刻です。テレビや雑誌では、年収300万円以下の歯科医師が増え、「ワーキングプア」などといわれていますが、こうした事態を心配して「自分の子どもには歯科医師を継がせず、医師にしたい」などという話は実際によく聞かれます。

■1960~70年代は歯科医が不足

 ところで、患者さんにとっては、歯科医院の数は多いほうがいいことは、間違いありません。

 むし歯や歯周病は放置しておけば進み、歯を失う原因になります。「むし歯の洪水の時代」といわれた1960~70年代は歯科医が不足し、歯科医院の前には患者さんの行列が夜遅くまで続きました。

 歯科医院の数が多い今、このようなことはありません。「歯の調子が悪い」と思ったら、家の近くや職場の近くなど、かかりたいときにかかれる施設が必ずあります(そうした意味ではまさにコンビニ的といえるかもしれません)。

 また、歯周病治療や矯正治療やインプラント、審美歯科といった具合に歯科医院ごとに専門も違いますし、保険診療中心か自費診療か、といった違いもあり、複数の歯科医院の中から自分に合った施設を選べるのもメリットでしょう。

 問題はこうした中でどうやっていい歯科医院を選ぶかということです。経営の苦しいところでは収入を得るために、患者さんをたくさん診ようとして、流れ作業になってしまうこともあるでしょう。必要以上に高い治療をすすめてしまう可能性もないとはいえません。

 しかし、患者さんの歯を守るために、信念を持ってクオリティーの高い治療を提案する歯科医もいます。

 高額の治療をお金のためにすすめているのか、患者さんのためなのかをどうやってこれを見分ければいいのでしょうか。

 正直、私自身にも明確には答えられないのですが、一つ大事なことは「歯科医師が親身になって患者さんのことを考えているかどうか」です。そして、そのことを言葉だけでなく「肌で感じられる」こと。

 例えば家電を買おうとするとき、「こちらの商品がいいですよ」とすすめる店員さんの態度をよく見れば、売りつけようとしているのか、そうでないのかは、なんとなくわかります。

 歯科医院の選び方については別の回でも詳しく紹介していく予定ですが、まずは、このことを歯科医院選びの目安の一つにしていただければと思います。

◯若林健史(わかばやし・けんじ)
歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演

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