空き家でも掃除や建物の修繕、庭の手入れなどが必要だ。水道や電気・ガス、固定電話などの基本料金は使っていなくても取られる。固定資産税もあり、空き家を維持するために、年間数十万円かかることは珍しくない。
特に価格下落の恐れが強いのは、郊外のベッドタウンだという。
「国道16号沿線など首都圏から電車で1時間前後の郊外のベッドタウンは、団塊の世代が成長期に合わせて一気に流入しました。そのため、団塊の世代の引退に合わせて、人口が流出するペースが一気に早まる可能性が高い」(長嶋氏)
兆候はすでにある。例えば千葉県柏市の大室地区。17年3月公表の公示地価で前年と比べた下落率が8.5%と全国の住宅地で最も大きかった。大室地区には1970年代に開発された住宅街「柏ビレジ」が広がる。都心などに通う当時30~40代の会社員ら約1600世帯が入居したが、今では空き家も目立つようになっている。
「柏ビレジは鉄道の駅から離れていて、より生活が便利なところに移り住む人もいます。こうしたベッドタウンは首都圏近郊にいくつもあり、空き家問題はこれから深刻化するでしょう」(長嶋氏)
駅から離れた物件ほど価格が下落するペースは速くなりがちだという。人口が減っている地方の住宅地はさらに厳しい。実家の資産価値は想像以上に下がる恐れがあるのだ。少しでも買い手がいるうちに、処分方法を考えておくべきだろう。
空き家になっても処分することを決められないまま、時間だけが過ぎていくケースもある。空き家に関する専門家を養成している全国空き家相談士協会の林直清会長は、こう話す。
「10年も20年も放置されている空き家について、今になって『どうすればよいでしょう』と相談を受けるケースがかなり多い。人の手を入れないと、家や土地はすぐに劣化する。他人に貸したり売ったりすることが難しくなり、さらに放置する悪循環に陥ります」
国土交通省が戸建て空き家の所有者らを対象に14年11月~15年2月にかけて実施した「空家実態調査」では、今後5年間の使い道として「空き家にしておく」と答えた割合が21.5%で、「売却する」(8.8%)や「賃貸する」(6.1%)を上回った。