そして80年代。女優としてもその繊細かつ遠慮知らずの存在感を開花させ、映画『白蛇抄』では、かつてサラシで押さえつけられた肢体を惜しげもなく露にして、“官能クイーン”としての地位も確立。時を同じくして名曲『お久しぶりね』が大ヒット。年末の紅白歌合戦では“ドレスからハイレグへの早替え”を初披露し、以降『ルミ子のハイレグ』は大晦日の風物詩となりました。年々激しくなるルミ子のダンスとハイレグの食い込みに比例して、日本経済も成長の一途を辿り、極めつきは87年。ルミ子は紅白で『ヒーロー』という曲を歌いました。日本でもお馴染みの洋楽カバーですが、ルミ子はレコード化すらされていない独自の訳詞バージョンを、まるで「これは正真正銘私の曲よ!」と言わんばかりに、真っ赤なハイレグと真っ赤な革ジャン姿で、50人近い男性ダンサーらを従えて熱唱。イントロで「今年は鮮やかな赤のコスチュームです」という紹介が入るのですが、“衣装”ではなく“コスチューム”という表現に、ルミ子の戦闘魂(ファイティングスピリッツ)が凝縮されています。相手はもちろん白組なんかじゃない。彼女が見据えているのは“世界”です。曲の最後、ダンサーたちによる“人間階段”を鋭いピンヒールで駆け上がり「アニダヒーロー!(I need a hero)」と雄叫びを轟かせたあの瞬間。間違いなくあれがバブルの頂点、日本が世界のトップに立った瞬間でした。
あれから31年。再びこの国を“頂”に立たせるべく、ルミ子は自身のヒーローの名前「メッシ!」を叫び続けています。とりあえずNHKは今後、サッカー関連のテーマ曲をすべてルミ子の『ヒーロー』(紅白音源)にするべきです。
※週刊朝日 2018年8月3日号