米国の大学が被験者48人の睡眠を「徹夜」「4時間」「6時間」「8時間」に分け、2週間にわたって脳の反応テストをした(徹夜は3日間で睡眠時間ゼロ)。言うまでもなく、4時間以下の被験者の脳の働きは衰えを見せた。6時間の人も時間がたつにつれ、徹夜した人と同じくらいまでテスト結果が低下したが、被験者はさほど眠気を感じず、注意力の低下にもほとんど気づかなかったという。

 睡眠負債は活動を鈍らせるばかりか、健康面でも認知症や生活習慣病、がんなどに影響するという。

 深刻なのが認知症のリスクだ。脳にたまった老廃物は睡眠中に排泄(はいせつ)されるが、寝不足が続くと脳内に残ってしまう。その一つが「アミロイドβ」という老廃物で、アルツハイマー型認知症の病因と考えられている。

「アルツハイマー型認知症患者の15%は睡眠の問題に起因するとの報告もある。アミロイドβは認知症を発症する20~30年前から蓄積してくるので、働き盛りの40代から睡眠負債の蓄積に注意するべきです」(白川さん)

 フィンランドで2千人を対象に睡眠時間と認知症の関連性を調べたところ、睡眠時間が7~8時間の人に比べ、7時間未満の人は発症リスクが1.59倍高くなったという。

 がんとの関連性も疑われている。睡眠を妨害されたマウスと、そうでないマウスを比較した米国の研究では、前者のがん細胞が2倍以上の重さになった。睡眠が不足すると免疫力が下がり、がん細胞の攻撃性が高まる恐れがあるという。

 早稲田大学の柴田重信教授(時間栄養学)によれば、「夜勤の人にがんの発症リスクが高くなる」という疫学研究の結果がある。

「明暗環境が変わる交代制勤務の人は、乳がんや前立腺がん、大腸がんの罹患(りかん)率が高い。海外の研究で、夜勤を含む交代制勤務を4年以上やった人は、乳がんの発症率が1.95倍になったという結果がある。夜中に光を浴びていると、がんを抑制するメラトニンの分泌量が抑えられるからだと考えられている」(柴田教授)

 井上雄一・東京医科大学教授(睡眠学)は、寝不足のせいで高血圧や糖尿病を発症し、悪化させることもあると指摘する。

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