ザ・フーのファンに朗報続々! 今春、50年前に収録された未発表ライヴ音源『ライヴ・アット・フィルモア・イースト 1968』、さらにピート・タウンゼントの『フー・ケイム・ファースト(45周年記念エディション)』が発売された。このほど、ロジャー・ダルトリーのニュー・アルバム『アズ・ロング・アズ・アイ・ハヴ・ユー』も登場し、愛好家を喜ばせている。
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ザ・フーのフロントマン、ヴォーカリストとして活躍してきたロジャーのソロ・アルバムは26年ぶり、9枚目となる。今回はピート・タウンゼントが7曲でゲスト参加しているから、ファンは見逃せない。
ロジャーは4年前にウィルコ・ジョンソンとのコラボレーション・アルバム『ゴーイング・バック・ホーム』を出し、全英チャート3位を記録。この成功に刺激され、ソロ・アルバムの制作に取りかかった。
完成させるまでにザ・フーの50周年記念ツアーがあったり、髄膜炎で生命の危険にさらされたりし、制作は何度も中断。一時は断念しかけた。だが、制作途中のラフ・ミックスを聴いたピートがロジャーを励まし、演奏でも参加協力。かつてバンドの主導権を争った2人の“友情”で生まれたアルバムとも言える。
本作は過去8作のソロ・アルバムとは趣が異なる。ザ・フーの前身、ハイ・ナンバーズの時代に取り組んだソウル・ナンバーを生かしている。
ロジャーがこう語る。
「ピートが僕たちの曲を書き始める前の時代、10代の僕たちがバンドを組んで、教会のホールでわずかな観客を前にソウル・ミュージックをやっていた時代への原点回帰だ」
「いつだって心を込めて歌ってきたが、19歳といえばまだ人生経験がなく、感情を揺さぶる試練やトラウマを味わっていない……失われた愛の痛みを感じられる。感じること。そして歌うこと。それがソウルだ。長い間、僕はこういう曲が持つ素朴さに回帰したいと思っていた」
もっとも、今の時代にリンクさせなければノスタルジーに終わってしまうことから、今のロジャーの気持ちを反映した曲を探し出すとともに、オリジナル曲も収録することになった。
アルバムの幕開けを飾る表題曲は、ハイ・ナンバーズ時代のレパートリーだ。もとはガーネット・ミムズの曲で、1960年代後期にイギリスでもてはやされ、レッド・ツェッペリンも演奏していた。ロジャーは、ブラス、ゴスペル・スタイルのコーラスをバックにワイルドに歌う。
ファイヴ・キーズの「アウト・オブ・サイト、アウト・オブ・マインド」、ジョー・テックスの「ザ・ラヴ・ユー・セイヴ」もハイ・ナンバーズ時代のレパートリー。ゆったりとしたサザン・ソウル・スタイルの演奏で、ソウルフルな歌を聴かせる。
カントリー・ソウルの「ホエア・イズ・ア・マン・トゥ・ゴー?」は、ダスティ・スプリングフィールドのカバーに触発されたらしく、女唄を男唄に歌詞を改めた。サザン・ソウルにロック的な要素を加味している。ボズ・スキャッグスのカバー曲「ユア・ラヴ」では、ブルース色の濃いボズと違い、ストーリー・テリング的な端正な歌を披露。ピートのシンプルなギター・ソロも興味深い。
スティーヴン・スティルスの「ハウ・ファー」、ニック・ケイヴのカバー曲「我が腕の中へ」は意外な選曲。前者では、ピートが個性的なギターを披露する。後者では、ピアノとベースをバックにしたロジャーの丹念な歌が聴きどころ。
パーラメントの70年の曲を改題した「ゲット・オン・アウト・オブ・ザ・レイン」、スティーヴィー・ワンダーの74年のヒット「悪夢」は、歌詞に着目してのことに違いない。前者では“大統領は「変化」について語っているが、それを続けるようなまともな頭の持ち主は一人もいない”と歌われ、後者はニクソン大統領のウォーターゲート事件などへの批判を込めた歌だ。当時と今の社会状況はなんら変わっていないという考えから、今回採り上げたのだという。
ロジャーのオリジナルは2曲。シンガー・ソングライター、ジェラルド・マクマホンとの共作「サーティファイド・ローズ」は娘のロージーに捧げる内容だ。小説家ナイジェル・ヒントンと共作した「オールウェイズ・ヘディング・ホーム」は人類愛についての歌。情熱あふれる歌いぶりに、ピートは「ロジャーのヴォーカリストとしての力が頂点に達していることを示す」と評している。
本作の直前に世に出た2作にも触れておく。
『ライヴ・アット・フィルモア・イースト 1968』は、マイクを振り回すエネルギッシュなパフォーマンスが目に浮かぶ。「ハッピー・ジャック」などのヒット曲、エディ・コクランのカヴァーのハード・ロック版もさることながら、30分に及ぶ「マイ・ジェネレイション」の即興演奏は圧巻。革新的と評されたバンドの実相、後のロック・オペラへの展開への萌芽を見いだせる。名盤『ライヴ・アット・リーズ』にも匹敵する貴重なライヴ・アルバムだ。
ピート・タウンゼントの『フー・ケイム・ファースト(45周年記念エディション)』は、これまで順次発表されてきたアウト・テイクなどの集大成。未発表音源を含む17曲のボーナス・トラックが興味深い。(音楽評論家・小倉エージ)