いまアイヌ民族が注目されている。自然と共存し、動植物などあらゆるものに「カムイ」が宿ると考える文化を持つ。明治後期の北海道を舞台に、アイヌ民族も登場する人気漫画「ゴールデンカムイ」が、手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)のマンガ大賞に決まった。アニメも放送されている人気作を参考に、アイヌの知恵を楽しく学んでみよう。
日露戦争から戻った「不死身」と言われる主人公の杉元佐一が、北海道に隠された金塊の手がかりをアイヌ民族の少女・アシリパと探す。日本軍や新選組の関係者も登場し、個性的なキャラクターたちが金塊を巡って争いを繰り広げる。
こんなストーリーのゴールデンカムイは、2014年に「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載が始まった。単行本は13巻まで出ており、累計で530万部を突破。14巻は6月19日に発売予定だ。アニメも4月からTOKYO MXなどで放送されている。
手塚治虫文化賞の選考では、「面白さが安定している」と高く評価された。作品ではアイヌの生活や文化も描かれている。著者の野田サトルさんは、アイヌの魅力についてこう語る。
「生活用品の彫刻とか、衣装や宗教観など全部ひっくるめて、おとぎ話の世界のような幻想的な感じに引かれている」
アイヌとはアイヌ語で「人間」を意味する言葉だ。北海道を中心に東北地方や樺太(現サハリン)南部など広い地域で、狩猟や植物採集をして暮らしてきた。シペ(サケ)を調理する場面など、作品を読むと暮らしぶりがよくわかる。
野田さんは複数の博物館などをまわって、衣服や道具などを実際に見てきた。樺太のアイヌの資料のために、ロシアにも行ったという。
「取材できるのは出版社の後ろ盾が大きい。新人の漫画家だったときは、博物館で撮影や取材をすることは難しかった」(野田さん)
丹念な取材に基づく描写で、アイヌについて初めて詳しく知った人も多い。
アイヌには長年差別されてきた歴史がある。日本は「単一民族国家」という意識が強く、アイヌ民族へは根強い偏見があった。作品でアイヌ語の監修をしている中川裕・千葉大教授はこう指摘する。
「アイヌについて考えさせる良いきっかけになっている。ほとんどの人は、アイヌという存在自体を知らない。自然に消えるのを待っているような状態で、『もう消えちゃったんだ』と思い込んでいる人もいる。実際はアイヌの人たちは今も消えていないし、伝統文化を残そうと努力している人も多い。だから、まずは知ることが大事だ」
作品を読めば、自然の恵みを巧みに利用していたことがわかる。
例えばサケはアイヌにとって主食で、「本当の食べ物」と呼ばれる。身は凍らせてルイペ(ルイベ)にする。冷凍することによって長期間保存でき、寄生虫のリスクを減らせる。加熱しないため、ビタミンを摂取できる利点もある。エラや上あごの真ん中にある氷頭などは、刃物でチタタプ(細かくたたいたものという意味)にして食べる。皮はチュプケレという靴の材料にする。サケはこうして余すところなく活用される。