
ロックが世の中を変えるかもしれない──。1969年夏、ニューヨーク郊外で開催されたウッドストック・フェスティバルに40万人もの若者が熱狂したという記事を目にしたとき、写真家の鋤田正義さんはそんな予感がしたという。広告会社に勤務しファッションポートレートを中心に撮影していた鋤田さんは、翌70年の夏休みに、単身ニューヨークに渡った。ウッドストックの“熱”や“勢い”を、どうしても自分の目で確かめたかった。
「それまでは、音楽はジャズが好きでよく聴いていました。でも、ウッドストックは若者が自発的に始めたイベントだと知って、自分も何かやらなくちゃと思った。その年に開催された大規模な音楽イベントのトリはジミ・ヘンドリックス。もう日はとっぷりと暮れていましたが、彼の雄姿を何とかカメラに収めることができたんです」
72年には、T・レックスを撮りにロンドンに渡った。そこで、まだ無名だったデヴィッド・ボウイのポスターを見つけたとき、「彼は何者だ?」と、不思議と心がざわめいた。
「宿泊していたホテルの若いスタッフに、ボウイのことを聞きまくりました(笑)」
以来、ロックミュージシャンを撮影することが、鋤田さんのライフワークになった。