ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「男性の『憧れ精神構造』」を取り上げる。
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石原さとみさん、新垣結衣さん、北川景子さんといった美人どころが毎年しのぎを削る風物詩と言えばご存知『なりたい顔ランキング』です。『憧れの顔』や『真似したい顔』とはまた違う「努力はしたくないけど、願わくは寝て起きたらそうなっててくれないかしら」という自己中心的かつ怠慢極まりない現代人の精神が生々しく込められたネーミングではないでしょうか。かく言う私(43歳)も、「日々の過剰な化粧やパンストの締めつけが功を奏して、気づいたら井川遥のような顔になっている日が来るかもしれない」という幻想を捨てきれずに生きています。
ちなみにこのランキング、男性版もあるようで、最新の集計では10代・20代の1位が竹内涼真くん。そして30代・40代の1位が竹野内豊さん。そして何が衝撃って、50代の1位が再び竹内涼真くんなのです。世のオッサンたちが「なれるものなら竹内涼真の顔になりたい」と思っているという現実は、43歳の女装がうっかり井川遥になれると心の片隅で信じ込んでいることよりも質(たち)が悪い気がするのですが……。どうかこのランキングが平日夜の新橋駅前や上野のせんべろ居酒屋で得た回答をもとに作られたものでありますように。
考えてみれば、男性の『憧れ精神構造』は女性よりも複雑です。長嶋茂雄や松田優作のようなヒーローを崇める一方で、ポパイやメンノンやレオン片手に「モテたい・ヤリたい」という欲求だけを健気に追い求め、己のコンプレックスにうなだれる日々。ちょっと唇を厚ぼったく塗っただけで石原さとみになれてしまう図々しさは、男にはありません。キムタクがCMをしていたRAV4を買うためにバイトをし、TSUTAYAで1週間レンタルした藤井フミヤのバラードを必死で覚え、眉毛を抜いたついでに鼻毛も抜く。私の学生時代はこれがマニュアル男子の王道でした。お手本やマニュアルを必要とするのは、むしろ女性よりも男性の方なのかもしれません。同時に「俺はマニュアルなんかに縛られてない。誰のことも手本にしてない」というプライドも、男子の重要かつ面倒なところ。いつまでもチャラチャラしているわけにはいかない30代・40代にとって、寡黙で髭の似合う竹野内豊は千載一遇の好条件アイコンなわけで、つまりは竹野内もジローラモも『マニュアル精神度合い』的には同じだと言えるでしょう。