年度替わりに伴う新しい環境になじめず、不安感や抑うつ感が強まる「五月病」。もともとは大学生に使われており、厳しい受験勉強を経て入学したものの、緊張から解き放たれた虚脱感や理想とのギャップから目標を失い、無気力に陥った若者を指していた。しかし、“受験戦争”がひと段落した最近では、働く人に使われるのが一般的になってきた。職場のメンタルヘルスに詳しい精神科医に、五月病の現状を取材した。
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人形町メンタルクリニック・院長の勝久寿医師によると、五月病はいわばマスコミ用語であり、医学的には適応障害の一つ。就職、転職、異動などの環境の変化によるストレスに適応できない状態といえる。主な訴えは「自分のやりたい仕事ではない」「失敗せずに仕事ができるか不安」「職場の人間関係がうまくいかない」などである。
単に年度替わりに伴って生活や職場の環境が変わるだけでなく、新年度が始まって1カ月ほどで突入するゴールデンウィークが五月病への“助走期間”になりかねない。「五月病はこれらの4月・5月の日本特有の事情が関係している」という勝医師の見方はこうだ。
「新たな職場や仕事へのポジティブなイメージが形成される前に、失敗など不安が高まる体験をしてしまいネガティブなイメージが強くなると、ゴールデンウィーク中にポジティブなイメージは薄れ、ネガティブなイメージが濃くなってしまいます。ネガティブなイメージはポジティブなイメージよりも定着しやすいのです」
日曜の夕飯どき、「サザエさん」の放映時間くらいになると、月曜のことを考えて憂うつになる(サザエさん症候群)、月曜の朝になると出社がつらい……これらは誰でも経験することだが、5月ごろにみられれば「軽度の五月病」も考えられる。
五月病の主な症状は不安感や抑うつ感。頭痛やめまいなどの身体症状や、お酒の飲み過ぎなどの問題行動が伴う場合もある。不安感や抑うつ感はうつ病でもよくみられる症状だが、五月病ならストレス、すなわち職場から離れれば症状が軽減するのが特徴である。勤務日はふさぎ込んでも、週末には運動や買い物を楽しむことができる。勝医師はこれを「重りがついたバネ」に例える。