津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
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米議会上院の公聴会で証言するフェイスブックのザッカーバーグCEO(c)朝日新聞社
米議会上院の公聴会で証言するフェイスブックのザッカーバーグCEO(c)朝日新聞社

 ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。今回は情報流出に端を発したフェイスブックへの不信感がいまだ払拭されていないことを指摘する。

【写真】公聴会で証言するザッカーバーグCEO

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 2016年の米国大統領選挙以降、ロシアによる選挙介入や、フェイクニュース、ヘイトスピーチの蔓延を許したとして批判にさらされてきたフェイスブック。先月には英国の選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」に最大8700万人分のユーザー情報が流出していたことが発覚し、さらなる窮地に陥っている。

 4月10、11日、米議会上下院で開かれた公聴会に出席したフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、情報流出について議員からの厳しい質問に答えた。冒頭、ザッカーバーグCEOは「私に責任がある」と謝罪。選挙干渉やヘイトスピーチ、情報保護などの対策が不十分だったことは「大きな過ちだった」と認め、再発防止の取り組みを約束した。

 しかし、議論がインターネット企業への規制強化に及ぶと、一定の理解を示しつつも、消極的な発言に終始した。公聴会は2日間で10時間という長丁場だったものの、各議員の持ち時間が5分程度だったこともあり、あまり踏み込んだ議論にはいたらず、ザッカーバーグCEOがうまく追及をかわしたと見る報道も多い。

 公聴会をなんとか乗り切ったザッカーバーグCEOだが、フェイスブックに向けられた不信感が払拭されたわけではない。すでに昨年10月には、ロシアの選挙介入にネット広告が利用されたことを受けて、テレビやラジオ、紙媒体の政治広告と同じ情報開示のルールを適用する「ネット政治広告規制法案(Honest Ads Act)」が提出されている。情報流出が発覚し、ユーザー情報が政治的プロパガンダのために利用されたのではないかという疑惑が報じられてからは、フェイスブックをはじめとするインターネット企業が行う「ユーザー情報の収集や利用」に、厳格なルールを定めるべきだとの声が高まってきている。

 フェイスブックの収益の柱は、ユーザーの属性や「いいね」、ウェブサイトの閲覧履歴や外部との協業によって得た個人情報にもとづく「ターゲティング広告」だ。その広告の基盤となるユーザー情報がどのように収集、保管され、利用されているのか、あるいは第三者にどこまで提供されているのかは不透明で、ユーザー本人も把握できない。そのためアメリカ自由人権協会などは、ユーザーによるプライバシーコントロールや情報収集の際の事前同意の義務づけなど、プライバシー保護のための法整備を訴えている。フェイスブックのビジネスモデルの根幹ともいえるユーザー情報の収集や利用に規制をかけようというわけだ。

 情報流出をめぐってはテクノロジー業界からの風当たりも強い。奇しくも、EU(欧州連合)では厳格なプライバシー保護を義務づける「一般データ保護規則」の施行を5月25日にひかえ、インターネット企業は対応に追われている。ユーザーのプライバシーのあり方が改めて問われる1年になりそうだ。

週刊朝日  2018年5月4-11日合併号