ストリープはこの役で、受賞は逃したもののアカデミー賞主演女優賞の候補となった。

 71年当時の米国はまだまだ男性中心の社会。夫の死後社主を継いだグラハムは、男性役員に遠慮し、社内でリーダーシップを発揮できていなかった。そういう中で、自ら収監されかねないという事態に直面しながら記事を出すか出さないかの究極の決断を迫られ、真の新聞人として成長していく姿を演じた。

 監督は「映画はグラハムが真のリーダーに成長していく物語」と語り、映画のこうした側面も見てほしいと呼びかける。恋愛などの要素は一切なく、ストリープは「男女のビジネス上のパートナーシップを描いた珍しい映画」と話す。

 ストリープはハンクスの7歳年上だ。「普通の男女の映画なら、私は彼と組むには年上すぎる。男性は10歳、15歳、20歳年下の女性と組まされるし、私は20歳年上の男性と組まされる」と、この映画でようやく共演が実現した背景を分析してみせた。

 米国のファクトチェック機関ポリティファクトは、当事者の回顧録などをもとに、ワシントン・ポストが文書を入手した経緯などいくつかの点で事実と異なる点があると指摘している。

 だが、脚本を手がけたリズ・ハンナやジョシュ・シンガーらは、できる限りの考証を重ねたと話す。グラハムやブラッドリーの遺族、ワシントン・ポストの関係者にインタビューを重ねたほか、資料も丹念にたどったという。

 そうした細部へのこだわりは映画の随所に見られる。印象的なシーンの一つに、記者が社内でタイプを打っていると床がガタガタ揺れる場面がある。社屋の地下に新聞を印刷する輪転機があり、締め切りが終わり、輪転機が回り始めると床が揺れて印刷が始まったことを知るのだ。

 映画を貫くメッセージは明確だ。ニクソン政権が求めた記事掲載の差し止め請求は、最高裁で最終的に却下される。判決の結果を電話で聞き取った記者の一人が、判事のこんな言葉を編集局内に伝える。

「建国の父たちは報道の自由に保護を与えた。民主主義における基本的役割を果たすためだ。報道が仕えるべきは国民だ。統治者ではない」

 今の米国に語りかけているかのようだ。(朝日新聞ニューヨーク支局長・鵜飼啓)

AERA 2018年4月6日号

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