
権力が報道の自由を抑え込もうとしたとき、報道機関はどう立ち向かうべきなのか。米国ではいま、トランプ大統領が主要メディアを「フェイク(虚偽)ニュース」と連日のようにこき下ろしている。極めて今日性の高いこの問題に、ハリウッドを代表する映画監督、スティーブン・スピルバーグ氏が最新作「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」で取り組んだ。
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実話に基づくこの映画は、1971年のワシントン・ポスト紙が舞台だ。半世紀近く前の話だが、構図は今と重なる。
当時、米国はベトナム戦争の泥沼から抜け出せずにいた。米国は共産主義の浸透を防ごうと軍事介入を深めたが、北ベトナムのゲリラ戦に手を焼き、米軍にも大きな犠牲が出ていた。
厭戦気分が高まる中、国防総省(ペンタゴン)の研究を請け負う研究所に勤めていたダニエル・エルズバーグ氏が、歴代政権が勝ち目もないのに戦争を続けてきたことを示す同省の秘密報告書をリークする。これが表題の「ペンタゴン・ペーパーズ」だ。
文書はまずニューヨーク・タイムズへ。同紙は特別チームを作って大々的に報道に乗り出す。
だが、当時のニクソン政権は「安全保障上問題がある」として、同紙の記事掲載を差し止めるよう連邦地裁に請求。この請求が認められ、タイムズは報道できなくなる。
そこに新たに文書を手に入れたのがワシントン・ポストだ。
当時、同族経営の地方紙という色彩がまだ強かった。タイムズに対する差し止めに逆らう形で文書について報じるべきか、控えるべきか──。映画は、決断を迫る編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)と葛藤する女性社主のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)を中心に、大揺れになる社内を描いた。
なぜこの映画を今撮ったのか。スピルバーグ氏は朝日新聞などとのインタビューで、「脚本を2年前に読んでいたらそのときに撮影しただろうし、2年後に読んだらそのときに撮っただろう」として脚本に引きつけられたと強調する一方、こうも話した。
「脚本を読んだのは(トランプ政権発足間もない)2017年2月。すごい迫力だった。報道機関が直面している攻撃を思い起こさせた。現在と似通った面が実にたくさんある」