「民主党はもう左派でも中道でもない。中途半端で、働く者の味方と言えない」。ローマ市内の投票所で、男性(60)が吐き捨てるように語った。五つ星に投票したといい、「市民目線のまじめな運動が評価できる」と話す。

 五つ星は今回が2度目の国政挑戦。2013年の総選挙で彗星のように現れ、108議席を得て第2党に躍り出た。既成政党を批判し、連立政権への誘いを拒否して存在感を示した。

 16年の地方選挙でローマやトリノで女性市長を誕生させ、今回は国政で議席を倍増させた。ユニークなのはその活動ぶりだ。

 政党とは言わず運動と言い、選挙はネット中心。企業献金を受けず、市民の小口献金で賄う。議員は市民の代弁者として2期まで、退任後は一市民に戻る。直接民主主義を目標とし、実現すれば解散するという。

 影の内閣で直接民主主義担当相のフラカーロ氏は「既成政党の公約は選挙のための方便で、約束しても守らない。市民が意思を直接表明できるシステムが望ましいと考えている」という。

 直接民主主義は総選挙の争点ではないが、究極のゴールとしてめざす。当面は議会で既成政党に代わる勢力をめざす戦略だ。

 五つ星は選挙直前、「政権を担う用意がある」と表明し、他党との連携協議に応じる構えを見せた。単独過半数を取れない一方で、第1党になっても単なる批判勢力だと有権者に応えられない。既成政党との連携を無視できなくなった。

 五つ星とは、これからの社会に大事な五つの価値(発展、環境主義、水資源、持続的な都市交通、ネット社会)を表す。底流には、ローマクラブが提唱した「成長の限界」や、イタリアでのスローライフの発想などが読み取れる。競争原理、収益至上主義、拝金主義と距離を置く穏やかな環境派の運動のように見える。

 運動を草の根で支える活動家、ファビオ・フォイスさん(35)は「政治を冷ややかに笑っても問題は解決しないと気づいた」と話す。集会に出て環境や都市問題を語るうちに、自分の感性に合うと思った。週末は人通りの多い場所で青空座談会。雇用や市政の課題を見知らぬ人と語る。

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