では、高齢者とスマホの関係はどうなのか。認知症改善に作用する三つの要素は、コミュニケーション、運動、知的好奇心だと言われる。ネットやスマホで知的好奇心を満たすことはできる。スマホ操作は指の精緻運動と言えなくもないが、全身を使っての運動とはほど遠い。
注意したいのは、コミュニケーションだ。横田准教授が指摘する。
「ネット依存に陥りやすいのは子どもは中高大学生。大人は中高年層。だが、大半は家族と生活を送り、日中は学校や会社に通う。つまり、半ば強制的に生身の人間と触れ合う。一方で、高齢者の場合、独居のケースも少なくない。定年退職すれば、外出も減る。自宅という密室でネット依存に陥っていても、誰も気づかない可能性がある」
一方、スマホ画面を眺めながら、片手に哺乳瓶で赤ちゃんにミルクをあげるママ。ベビーカーに座る赤ちゃんより、スマホ画面に夢中なママやパパ。街なかでは、おなじみの光景だ。共働き家庭が増える今、じいじやばあばが、スマホ片手に孫の子守をする光景が当たり前になるかもしれない。横田准教授は「養育者が、子どもではなくスマホを見る行為は、正常な発達を妨げる」と警告する。
大人は社会で、(わたし―あなた―人や物)という三項関係の中で生きている。だが、乳児のコミュニケーションは、(わたし―あなた)という二項関係が基礎となる。発達初期の子どもにとっての(あなた)は養育者だ。
そのとき、ママやパパ、じいじやばあばが、子どもではなくスマホを眺めていたら、二項関係を築く経験が不足する。年齢が上がれば、(その他の人や物)という三項関係に広がり、保育園や学校などの集団生活につながるのだが、基礎となる人間関係が不十分なまま成長することになる。
「私はスマホの子守アプリやYouTubeの動画を、子どもと一緒に見て楽しんでいるから大丈夫」
そう思っているのならば要注意だ。たとえば、じいじやばあばが、赤ちゃんをあやしている。赤ちゃんのしぐさや表情を見ながら、「ばあ」と声をかけたり、顔を近づけたり遠ざけたりするのが自然な対応だ。一方、子守アプリだとどうか。笑い声を立てていたとしても、赤ちゃんはプログラミングで動く機械を相手に、動画を楽しんでいるにすぎない。子どもの発達の基礎となる二項関係は、(わたし―スマホ)という、機械相手のいびつな関係にすり替わっている。