まとまったかたちで世に出すことに対して、作者としてこだわりと責任があったのだろう。それは、サザエさんのベスト版である『よりぬきサザエさん』の制作過程にも表れている。当時、単行本を34巻まで出していた町子は、過去の作品全てを見直し、徹底的に自己採点。その時の自己採点表も残っている。自らの作品とシビアに向き合い、自身が認める作品だけを選び抜いた。

 さらに、本や媒体の判型によってコマの幅が変わるため、バランスを考えて線を引き直したり、絵柄の一部を修正したりしている。新聞、単行本、よりぬきと同じ作品を掲載しているかのように見えて、実は、町子は常に“ベスト”を模索し、その都度手が加えられているのだ。

 今回刊行される「おたから」シリーズは、漫画の原画や、元原稿を切り貼りし、余白に補筆を加えた没原稿なども掲載した、まさに“おたから”本。

「この本は、町子の単行本作りの過程が垣間見られ、研究資料としてもかつてない重要なもの。新聞の印刷面ではなかなかわからなかった町子の美しいペンさばきもご覧いただけます」(橋本さん)

 新しい発見が広がる、“秘蔵版”サザエさん、一家に一冊、いかがだろうか。(本誌・松岡かすみ)

*『おたからサザエさん』(1、2巻、朝日新聞出版)は、全国書店にて3月20日発売。各1080円(税込み)

週刊朝日 2018年3月30日号

暮らしとモノ班 for promotion
台風、南海トラフ地震、…ライフライン復旧まで備える非常食の売れ筋ランキング