思えば、超人気バンドの2代目ボーカルに就任するなど前代未聞でしたし、本人たちの重圧はおろか、世間の戸惑いも計り知れないものがあったと思います。しかしそんなウルトラC級を彼は「(状況も言葉も)いまいち分かってないけど歌います」的な浮遊感によって見事切り抜け、先代(杉山清貴)の世界観を踏襲しつつも、新しいインプレッションで1曲目(『君は1000%』)を大ヒットさせました。バブル絶頂の数年間、カルロスが放った掴みどころのない多国籍(エキゾチック)な風は、内気ながらも洋モノ風情を夢見る当時の日本人の願望そのものであり、やがて来る本格グローバル化の予行演習だったのかもしれません。奇しくもオメガが解散した後の90年代中盤から、海外進出に挑む日本人がぐっと増えました。かつて地球の裏側に渡り、日系人の文化を切り拓いたカルロスの両親世代のように。そして『日系3世』として生まれ育った祖国ブラジルの地にニンニク栽培を根付かせるという新たな『開拓』で成功を収め、今またルーツである日本で歌うことを『再開』したカルロス。相変わらず行き場なさげな色気を振り撒きながら。
チリ産の赤ワインを飲みながら30年ぶりに聴いた『アクアマリン―』は、グローバル化の世の中に疲れた私の体に染み渡りました。「外国なんて雰囲気ぐらいがちょうど良い」。これが日本人の本音でしょう。とか言いながら今のカルロスが時々ホリエモンに見えたというのはここだけの話。それはそれで無邪気にハニカム顔にあの頃の面影を見ては萌える2時間でした。
※週刊朝日 2018年3月23日号