北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
「慰安婦」問題は人権問題(※写真はイメージ)
作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「『慰安婦』問題」について。
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今年の「3.1独立運動記念式典」で韓国の文在寅大統領は演説の中で「慰安婦」問題に触れ、「加害者である日本が『終わった』と言うべきではない」と話した。これはお金で解決する問題ではない、永遠に考えなければいけない人権問題なのよ、というまともさが眩しかった。
とはいえ案の定、この発言を受けた日本は荒れている。政府間の約束の意味がわかってんのか!? 終わらせるって約束しただろ?と非難する声は官房長官はじめ、ネットでも大きい。同じ調子でTPP反故にしたトランプ批判もどうぞと言いたいところだが、いったいなぜ、対韓国、こと「慰安婦」問題で日本は冷静になれないのだろう。
その理由を私は、「慰安婦」問題に羞恥を持つ人が多いからだと考えていた。性暴力で告発されるなど(男として)恥ずかしい。早く忘れろ、声出すな、俺の名誉を守れ、という意識なのだろう、と。
ところが、“みんなが言えない本音を俺が率先して言ってやる”みたいな人がもてはやされるようなネット社会を生きていると、そんな羞恥すらないのだと感じる。むしろ「男ならば誰でもやること。なんで俺らだけ非難されなきゃいけないの?」という本気の被害者意識が見え隠れする。だからこそ声をあげる被害者を叩き、これは人権問題だと訴える声を「金払ったのに」と嘲笑う。もはや性暴力問題など、誰の頭にもない。そんな状況なのではないか。
最近は、若者たちの間で「慰安婦」女性たちを「かっこいい」と考える傾向もある。彼女たちの人生をモチーフにしたグッズ販売の会社を若者が起業し、大成功を収めるなど(収益は人権活動や「慰安婦」運動に還元される)、「慰安婦」問題に関心を持つ若者の層が広がっているのを、韓国にいると実感する。
と、こんな話をすると「韓国はベトナムで、日本軍と同じことしたのを知っているか?」と得意げな顔で言いたがる人もいる。得意げになっている時点で人権感覚ゼロすぎるのだが、そういう人は知っているだろうか。ベトナム戦争時の韓国軍の性暴力加害を、韓国社会で告発したのは、「慰安婦」女性たちであり、その支援者だったことを。その声によって、タブーだった加害国としてのベトナム戦争の語りが、新たに韓国社会で生まれはじめていることを。
そう。女たちにとって「慰安婦」問題は、日韓政治問題ではなく、最初からずっと人権問題だったのだ。そしてその一歩も動かないその強さが、韓国社会、国際社会を変えてきたのだ。
1991年、金学順さんが声をあげてから約30年。韓国と日本の差は、人権意識、という点で大きく大きく、差が開いた。
※週刊朝日 2018年3月16日号