K「だって羽生くん、一番最後なんだもん」
大トリは宇野昌磨。こいつちゃんと観てないな。だいたいお前は無職なんだから昼間の生中継を観ろ。
K「滑り終わると客席からプーさんが飛んでくるんだよ!」
嬉しそうなK。無邪気といや無邪気、だが御年42・今年後厄・実家から仕送りをもらう身だ。
K「あれだけプーさんがくれば金だよな。遅れてすまんす!」
『すまんす』で微塵も反省してないのはよくわかるが、プーさんの数で金メダルが決まると思ってるのだろうか? 怖いのであえて確かめない。
T「……宇野昌磨が大トリで銀メダルだぜ。観てないだろ?」
K「マジで!?」
スマホでテレビを見始めたK。私とTは無視して飲み続ける。ひとしきり酔ったところで「お会計」と告げると「もう一品出ますんで!」と店員。それから30分待たされ、終宴間際にKの頼んだ『鯛のかぶと煮』が登場。じれ気味のTが「早く食えっ!」と急かすと、「ぅう!!」とK。鯛の骨が喉に刺さる。ライチジュースが喉に沁みて苦しむKのスマホには、今日何度目かのクルクル回る羽生結弦。
ライチジュースとかぶと煮とフィギュアと、後厄の無職。脈絡のなさが無双すぎて、腹を立てるのも馬鹿馬鹿しい。思わずプーさんを投げ込みたくなるほどの、まさしく「待ってました!」な瞬間だった。
※週刊朝日 2018年3月9日号