落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「真打ち登場」。
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世の中には「お前は宮本武蔵か?」と突っ込みたくなる、腰の据わった、筋金入りの遅刻魔がいる。そんな人には間違っても小次郎のように「おそーいっ!! 武蔵はまだかーっ!?」なんてイラ立っちゃいけない。遅刻は病。怒ったら負けだ。「待ってました! 真打ちっ!」と軽く掛け声を飛ばそう。
学生時代の友人K、その悠々たる遅刻っぷりは宮本武蔵のごとく。先日、久しぶりに仲のよい者で集まることになった。たった3人の飲み会だが、やはり遅刻するK。友人Tと「いつものことだ」と諦める。断りなく1時間強の遅刻をしたKは詫びごとも一切なく、スィーッと着席。
「二人とも相変わらずっすか!?」。それはお前だ。
刺し身を前にコーラを飲み始めた下戸のK。気の短いもう一人の友人Tが「何してたの? 仕事!?」と聞くと、「いやいや、まぁ、ちょっと立て込んでてさー」と曖昧な返事。恐らくテレビを観てたら遅くなった……くらいの理由だろう。学生時代はよく「『うたばん』のゲストがaikoだったからー」だの「『誰でもピカソ』のクマさん(ゲージツ家・篠原勝之氏)から目が離せなくてー」だの、へらへらと言い訳をしていたK。旧知のTは「またテレビか!?」と問い詰める。さすが20年来の友人。いい見立てだ。
K「ち、違うよっ! オリンピックだよっ!!」
私・T「テレビやんっ!!」
突っ込みが図らずもエセ関西弁。かつハモってしまって恥ずかしかったが、久しぶりでも遅刻して来る、変わらぬKの『むさしぶり』。
K「羽生結弦を観てたら遅くなってもーた……すまん」
『もーた』な時点でまるで反省してないのが丸わかり。フィギュアスケートの生中継は昼間だ。我々の飲み会は21時集合だからこいつが観てたのは再放送。再放送に俺たちは負けたようだ。