ジャズが面白くなる誰にでも出来る確実な方法が、ジャケットを見ないでミュージシャンを当てる「ブラインド」であるというお話の続きです。このゲームはコツを掴むまでけっこう難しい。似た遊び、曲名をすばやく当てる「イントロ・クイズ」は記憶に頼ることが出来ますが、「ブラインド」はただ単純にメロディを覚えればいい、というものではない。旋律は覚えやすい。

 ジャズでは、さまざまなミュージシャンが同じ曲目を取り上げる「スタンダード」という習慣があるので、曲を覚えても意味が無い。では、何を覚えるのか? ミュージシャン特有のフレーズ、音色の肌触り、それら全体が醸し出す「個性」を覚えなければなりません。

 「癖」はあらかじめ知っていれば「あ、それそれ」と気が付きますが、初対面の人の癖などわからないように、これは難しい。しかし手掛かりはあります。とにかく注意深く聴くこと。探偵が「容疑者」の表情や言葉の端々にまで探索の手を伸ばすように集中する。

 そうすると、自然と「ちょっと他の人と違うな」というところが見えてくる。息継ぎのとき妙に音が強くなるとか、サウンドが掠れているとか、特定の音の組み合わせがたびたび出てくるとか… 何でもいいからそういうものに気が付いたら、アタマの中でメモし、クセその1、クセその2というように心の整理箱に入れるのです。

 で、今度は同じミュージシャンの違うアルバムを聴き、それらの特徴に注意しながら聴く。こうしたことを繰り返すと、嫌でも「あ、また出てきた」と気が付くようになります。ここまで到達するのに、そうですね、同じミュージシャンのアルバム3枚ぐらいを丁寧に1週間も聴き続ければOKかな。

 こうした「訓練」をすると、ジャズバーなどで同じミュージシャンがかかったら、まず間違いなく「これ、リー・モーガン」などと言い当てられるようになります。カッコいい! そして「副作用」も大きい。私の経験では、こうして言い当てられるようになったミュージシャンは、ほぼ100%好きになっているのです。面白いアルバムの数が増える。

 理由は、ヘンな話かもしれませんが「人間関係」と同じではないでしょうか? 初対面の人には好意の持ちようもありませんが、何度か付き合い、その人の個性が見えてくると親しみが生まれ、よほどモンダイのある人でもなければ、まあ、「アイツもいい奴だ」となる。ジャズもおんなじなのです。

 付け加えれば、こうして好きになったところは「ミュージシャンの個性」というジャズの本質的要素なのです。つまり、ブラインドで好きになるということは「ジャズがわかった」ということなのです。どうです、カッコいいでしょう。[次回5/13(月)更新予定]