歌舞伎座の楽屋で、『車引』松王丸の顔をつくる幸四郎。力強い二本隈に襲名の決意が宿る。「僕の肉体を通して、先人や先輩の素晴らしい芸をいかにお客様にお見せするか。それが役者としての最終的な目標です」(撮影/写真部・岸本絢)
歌舞伎座の楽屋で、『車引』松王丸の顔をつくる幸四郎。力強い二本隈に襲名の決意が宿る。「僕の肉体を通して、先人や先輩の素晴らしい芸をいかにお客様にお見せするか。それが役者としての最終的な目標です」(撮影/写真部・岸本絢)
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 1月の歌舞伎座公演で、松本幸四郎が二代目松本白鸚を、市川染五郎が十代目松本幸四郎を、松本金太郎が八代目市川染五郎を襲名した。親・子・孫の三代同時襲名は、じつに37年ぶり、しかも高麗屋にとっては2代続けてとなる慶事。その舞台裏に密着した。

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 高麗屋の“奇跡”を目にしようと、新年から多くの人で賑わった歌舞伎座。新しいスタートを切った白鸚、幸四郎、染五郎の3人も、「みなさまに温かい声援をいただいて有り難いことです」と一様に表情を緩める。なかでも白鸚(75)は感無量の様子。

「襲名の『名』は、『命』ではないかと思います。名前や芸だけでなく人間の魂を受け継ぎ、受け渡す。そんな深い感慨を覚えております。ただ、このような情の話はここだけのことで、幕が開きましたらみんなライバルで息子も孫もございません」と尽きない意欲を見せる。

 アマチュアの挑戦者ではなく、プロフェッショナルの挑戦者として、白鸚を務めたいという。

「二代目白鸚は、九代目幸四郎より身軽になったともいえます。でも、この自由というものが曲者で、飼いならすには芸が必要です。芸がない自由は、ただの破廉恥ですから、それを操る職人にならなければだめだと思います」

 一方、幸四郎(45)は、重責を感じながらも歌舞伎へのあふれる熱情をにじませる。「幸四郎を名乗れてうれしい、というだけでは済まされません。大事なのは、ここから十代目幸四郎として何ができるか。弁慶にしても“自分らしく”と考えたことは一切ありません。憧れてきた父の弁慶をその通りに体現するのが自分の務めです」

 6年前には、舞台での事故に見舞われた。「奇跡的に再び舞台に立てる体にしていただいたからには、舞台に立つことが残りの人生の使命ではないかと。名を残すことより、いかに歌舞伎の戦力になれるかを考える。目指すのは、そんな歌舞伎職人としての生き方です」

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