
昨年のグラミー賞最優秀新人賞受賞に続く、絶好調の新作
Radio Music Society / Esperanza Spalding (Universal)
3月21日の国内盤発売を控えた今月7日、本作のミュージック・ビデオ試写会が、東京・原宿のカフェで開催された。音楽業界の環境が厳しさを増す昨今、この種のイヴェントが激減していただけに、多くの参加者から歓迎の声が上がっていた。
アルバム全曲のために、エスペランサが主役を演じたMVを制作。歌詞の世界を描いた映像は、1曲ごとにストーリーが存在する。同居中の男性にそろそろ飽きていた彼女は、ある女性と知り合って親しくなる一方で、カフェの男性従業員に恋心を抱くものの、彼は同性愛者だったと判明。ウッド・ベースを積んだ車を運転すると、野外で演奏中の楽団に出会って飛び入りで共演。道路が渋滞したために本番に遅れ、やっと会場に到着した時には、メンバーから愛想を尽かされてしまうが、1人で歌とベースを始めるとすっかり彼女たちを魅了。また学校でアフリカの歴史をほんの少しだけ習ったという子供に、父親が直接補って教えるシーン等、エスペランサのアイデアが盛り込まれていて興味深い。短いエピソードの連続による合計約60分の映像は、限られた予算の中で、スペインの撮影チームの大きな協力を得て制作されたものであり、音楽家にとどまらず女優としての今後にも期待を寄せたくなる仕上がりだ。以上の試写が終了したところで、プロモーションのために来日したエスペランサ本人が登場し、質疑応答に続いて参加者とミート&グリート。初めて直接会話をして、キュートなルックスと愛さずにはいられないキャラクターに、たちまち魅せられてしまったのだった。
2年前の前作『チェンバー・ミュージック・ソサイエティ』が個人的に室内楽を探求した内容だったのに対して、この新作は表題を「ラジオ」に替えて、よりポップなサウンドを目指している。10曲でエスペランサが作詞・作曲を手がけ、自身のヴォーカリストとしての比重が増したのが特色。歌唱力と表現力に自信を深めた姿勢が、アルバム全体から感じ取れる。#1ではエラ・フィッツジェラルドがルーツのジャズ・ヴォーカルの王道を踏まえながら、ジョニ・ミッチェルの書法と唱法を体得した現代的センスも表現。リリックなのにヴォーカリーズのように響く点に才能が光る#3、R&Bナンバーとしても一級品と呼びたいファースト・シングル曲の#5、生地ポートランドを軽やかに讃えた#11等々、エスペランサの魅力が全開だ。カヴァーではスティーヴィー・ワンダーが書いたマイケル・ジャクソン歌唱原曲#6と、ウェイン・ショーターの楽曲に自ら作詞した#9の、ベースとアレンジが秀逸。昨年のグラミー賞最優秀新人賞受賞で弾みをつけたエスペランサが、最高の流れに乗って絶好調ぶりを示す話題作である。
【収録曲一覧】
1. Radio Song
2. Cinnamon Tree
3. Crowned & Kissed
4. Land Of The Free
5. Black Gold
6. I Can’t Help It
7. Hold On Me
8. Vague Suspicious
9. Endangered Species
10. Let Her
11. City Of Roses
12. Smile Like That
13. Jazz Ain’t Nothing But Soul(Japan only bonus track)
エスペランサ:Esperanza Spalding(b,vo)(allmusic.comへリンクします)
ジョー・ロヴァーノ:Joe Lovano(ts)
ジャック・ディジョネット:Jack DeJohnette(ds,p)
ビリー・ハート:Billy Hart(ds)
リオーネル・ルエケ:Lionel Loueke(vo)
2012年作品