2016年に週刊朝日本誌で連載されていた「週朝歌壇」から生まれた、歌人であり、細胞学者でもある永田和宏先生と知花くららさんによる短歌の入門書『あなたと短歌』(朝日新聞出版)。その刊行を記念して、みなさんから「恋」の歌を公募し、1回限りの誌上復活。知花さんと永田先生が選んだ句は? その一部を紹介する。
【対談する永田和宏先生と知花くららさん ツーショット写真はこちら】
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永田:「恋」を詠んだ歌はやっぱり面白いですね。題詠って、9割方同じような歌になりがちなんですが、恋だけは、本当にさまざまなバリエーションがあって、ちっとも単調にならない。それは、いろんな恋のかたちがあって、しかも、そのそれぞれの時期に自分の感情を必死で確かめようとしているからだと思います。
歌の究極は、挽歌と相聞歌だと言われるんですが、どちらも本質は同じなんですよ。自分の気持ちを相手に届けたい。それが、生きている恋人の場合もあれば、亡くなった人の場合もあるというだけ。自分の心と相手の心を、一生懸命考えるから、みんな違う恋の歌になる。だから面白い。
いつもたくさん投稿してくれる松原和音さんに、いい歌が何首かあって迷ったんだけど……「コンビニに流れる歌詞に聞き入ってどうかしている今日の私は」。
知花:わ!
永田:重なっていた? どこがよかったですか?
知花:こういうとき、ありますよね。普段は聞き流しているBGMの歌詞を聞いちゃっている自分。ああ、わかる、と共感しました。
永田:うん、まったくその通りだと思います。この歌、恋だとはどこにも出ていないんだよね。でも、おそらく恋のある局面で、異常に何かに敏感になっている自分がいて、誰も聞いていないようなコンビニで流れている曲の歌詞が気になってしまう。いちばんいいのが「どうかしている今日の私は」ですね。これは自己肯定しているのかな?
知花:自分の心が乱れていることに対する戸惑いじゃないかなって思ったんです。いつもなら聞かない、甘いだけだったりする歌詞が耳に入ってくるんですよね。何かに乱されている感じが強く伝わってきました。