北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
東方神起が約2年間の厳しい兵役からの完全復活(※写真はイメージ)東方神起が約2年間の厳しい兵役からの完全復活(※写真はイメージ)
 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、自死したSHINeeのジョンヒョンと同じ事務所である東方神起について。

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 2017年、東方神起が戻り、2年半ぶりにドームツアーが始まった。たとえトップスターであろうとも逃れられない、約2年間の厳しい兵役からの完全復活だ。地球上30万人のトンペン(東方神起のファンのこと)の皆さん、あけまして、おめでとう!

 この秋、東京の街は東方神起に溢れていた。10月にアルバムが発売された時などは、二人の写真が車体にラッピングされた山手線が走り、主要な地下鉄ホームは東方神起で埋めつくされ、街のありとあらゆる広告スペースが東方神起で溢れた。その資金力、その影響力を肌で感じながら、なぜか私も誇らしい気持ちになる。いったい、どこから目線?と自分でも不思議だが、復帰アルバムのデザインが、ロマノフ王朝の紋章に似ているのを見て、トンペンたちとその意味について語り合ってしまった。「私たちは、東方に起きた国の民なのよ!」「東方神起の力が誇らしいのは国民だからなのよ!」。そんなことを半ば真顔で語り合うのも楽しい40代の春です。

 12月18日、東方神起と同じ事務所のSHINeeのジョンヒョンが自死した。現在進行形で頂点に立つアイドルグループのメンバーの自死は、やはり衝撃的で、惨い。そのようななか、2日後の20日に東方神起のライブが東京ドームで行われた。

 
 たとえ身内が亡くなってもステージに立つのが芸能人なのかもしれないが、亡くなったのは他でもない、東方神起にとっても、K-POPファンにとっても大切なジョンヒョンだった。だからこそ東方神起は、“いつも通りに振る舞う”ことをしなかった。もちろんいつもと同じ演出で、東方神起の歌もダンスもファンを熱狂させるものだった。それでも何故だろう。私には東京ドームの3時間が、死を感じ、死者を悼む時に感じられた。それは演出としてではなく、東方神起本人たちがそう感じているからそう伝わるというもので、二度と再現できない、悲しみだった。

 ライブの最後に、二人がファンに語りかける時間がある。そこでチャンミンがこんな話をした。

「人には出会いと別れがある。それは自然なことだと思うんです。でも、そういう自然的なことが認められない残酷なことがあると思います」「冬、とても寒いじゃないですか。手をつないで、抱き合って、慰めて、暖かい時間を皆さんも是非。気がつかないで一人でこっそり傷を持っている人がいるかもしれないから」

 光の中で踊りながら死と向き合い、言葉を尽くして死を語りファンに向き合おうとするスター。彼らの存在の意味は何だ。ライブ会場から出て、そんなことを考えながら歩いていたら、前方から来た男性に、すれ違いざま肩をドンッと小突かれた。邪魔だったのだろう。この国で女でいると、時々こういうことをされる。でも、こんな夜は腹が立たない。ただただ、そんな社会とはサヨナラ。今はただ、手を取り合って温めあうような、そんな関係を手放さないでいるために、愛について考えたい。

 つらい別れを体験した人も。全ての人にとって2018年が優しいものになりますように。

週刊朝日 2018年1月5-12日合併号

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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