ジャズ・アット・リンカーン・センター・オーケストラで活躍するワイクリフ・ゴードン(tb)は、ヴォーカルでも盛り上げた
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 夏のニューヨークは、夜のジャズ・クラブだけでなく、公園やストリートでも多くのコンサートを、無料で愉しむことが出来る。その中でも、最も長い歴史を誇る、ジャズ・モービルを紹介しよう。

 ジャズ・モービルとは、その名の通り、トラックに牽引された移動ステージが、街角や公園にやって来て始まるコンサートである。1964年に教育者としても知られるピアニストの、ドクター・ビリー・テイラーによって、ハーレムのアフロ・アメリカンの若い世代に、自らが生み出したアメリカ文化の重要な一躍を担うジャズ・ミュージックの素晴らしさを、啓蒙するために始められた。

 ジャーナリストの吉田ルイ子が、60年代後半の公民権運動に揺れるハーレムを活写したドキュメンタリー「ハーレムの熱い日々」にも、アート・ブレーキ(ds)&ジャズ・メッセンジャーズが街にやってくるシーンが鮮やかに描かれている。7月から8月の間、ハーレムを中心としたニューヨーク市内の各地で、夕方7時から8時30分、週末は午後に開催され、コミュニティの人々が椅子や、食べ物、飲み物を持ち寄り、音楽に合わせて踊り、暑い夏の一日の終わりを愉しんでいる。

 1964年当時から通っているディープなファンも、見かける。水曜日の夜のメイン会場、南北戦争の功労者で、第18代大統領のグラント将軍の墓地公園でのコンサートには、フライド・チキンなどのソウル・フードや、アフロ・アメリカン・ヒーローや、ミュージシャンをプリントしたTシャツや、アフリカの民族衣装やアクセサリー、アフロ・アメリカンの歴史や、公民権運動の啓蒙書を売る屋台も建ちならび、ちょっとした縁日のような風情が漂う。

 ジャズ・モービルにはステージライトも最小限しかなく、日が落ちると、公園の街灯に照らされたトワイライト・タイムのコンサートとなる。47年間変わらない風景なのだろう。草の根レベルで、コミュニティの人々と共にあるジャズを体感できるイヴェントである。

■Jazz Mobile(ジャズ・モービル)
7月から8月の間、ハーレムを中心としたニューヨーク市内5区(マンハッタン、ブルックリン、クィーンズ、ブロンクス、スタッテン・アイランド)の公園、ストリートで開催されるフリー(無料)・コンサート・シリーズ。メイン会場は、グラント将軍墓地公園(Grant's Tomb、Riverside Drive at West 122nd Street, NYC 10024) スケジュール、詳細は下記サイトで要確認
http://www.jazzmobile.org/