塩分を抑えてはみたが、甘ったるい、全然味がしない、だしだけでは物足りない──。この悩みを、味にバリエーションをつけることで打開。料理研究家や都内クリニック院長のアドバイスを受けながら、唐辛子で辛みを足したり、ゆずで酸味や風味を出したりすることで、飽きがこない味わい深さを実現した。

 たとえば、素材が硬く、繊維質で味がしみにくいタケノコ。しっかりと煮込んだ後に、かつお節を絡める追いがつおをヒントにした調理方法にし、さらにグラニュー糖を甘蔗分蜜糖に変えることで、味にコクを出し土佐煮として仕上げた。しょうゆ、みりん、砂糖の味付けが基本の田作りだが、しょうゆなどの代わりにはちみつを絡めた。

 このほか、里芋は徳島産の木頭ゆずの風味でさわやかな味わいに。ごぼう煮は千切りしょうがを入れ、食感や風味を添える一工夫を忘れない。

 計12品で、食塩は使わず、昆布や小魚など海産物に含まれる素材由来の塩分0.54グラムのみ。50~70代のニーズが高く、「(食塩不使用で)心配したが、期待を裏切らない味だった」「だしの味が利いておいしい」といった声が寄せられる。贈答用としても好評で、塩分を控える田舎の両親へのプレゼントにもなっている。

 毎年予約で完売だそうで、担当者は「華やかな正月の食卓を囲む時でも、塩分を気にする方々が箸を伸ばせるおせち」と語る。

 2003年、糖尿病を患っていた父親の食事を管理していた樋口惠子さんが代表となり、「おいしく食べて、健康に!」をモットーに立ち上げたのが、「美食良菜」(東京都調布市)。この年から09年までスローフードセミナーを開催したが、イタリアンレストラン「ファロ資生堂」で、600キロカロリーのイタリア料理などを提供すると、「美食で糖尿病予防」などと好評を博した。おせちの販売を始めたのは06年。百貨店にとどまらず、スーパーや専門店のカタログに登場する。

「塩分・カロリーに配慮 個食おせち」は、祝い箸よりやや短めの仕切りのない重箱に、18種類の献立がぎっしり入る。1人あたり425キロカロリーで塩分は4.2グラムすべて北海道の工場で生産している。

 まずは貝類のトコブシ。海の幸だけに塩気が気になるが、1回、2回と塩分を抜いていく。縁起物の有頭エビはしょうゆ、みりん、砂糖を使って甘煮にしたいが、日本酒で蒸す。奈良時代の蒸し料理がヒントになっている。

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