「村民総会は今後の選択肢の一つとして検討しておくべきだとは思いますが、村で検討しようにもその材料がない。国や県でも制度の検討をしていただけるということなので、今はその状況を見守るしかないんです」

 前述のとおり、村民総会が条例で設置できることは地方自治法94条に規定されている。だが、その制度の詳細については95条で「町村の議会に関する規定を準用する」と書かれているだけで、具体的なことは何も定められていない。

 約100平方キロの広い村内に集落が点在する立地条件もネックだ。1日数本のバス以外の公共交通機関はなく、前出の筒井副村長は村民総会の実現性に疑問を示す。

「高齢でマイカーなど足の便がない方も多い。360人ほどいる有権者を同じ時間にどうやって1カ所に集めるのか。輸送を考えただけでも莫大(ばくだい)なお金がかかる。とても現実的とは思えません」

 やはり、村民総会は実現不可能なのか。実は、戦後の地方自治法下で前例が一つだけある。東京・八丈島の西に浮かぶ八丈小島にあった宇津木村(現・八丈町)では、1951年から4年間だけ村民総会が実施された。

 残念ながら当時の公的記録はほとんど残っていないが、八丈小島の村民総会について当時の関係者からの聞き取り調査などを行った名古屋学院大学の榎沢幸広准教授(憲法学)がこう解説する。

「宇津木村の村民総会では多くの村民が積極的に発言していました。自分の意に沿わない出席者を議長が指名しないなど粗削りな面もありましたが、村民が経験を積むことで、徐々に民主的な運営が機能するようになっていった形跡がうかがえます」

 榎沢氏の調査によれば、当時の宇津木村の有権者は30~40人ほど。村役場に20人弱が集まり、年2回ほど、約1時間程度の総会が行われた。村民から集めた食糧配給の代金を着服したまま行方がわからなくなった村長を帰村させるために、村長の妻らを上京させることを決議したり、不祥事の責任が問われた村長を総会にかけて辞職させたりすることもあったという。島民の間で丁々発止の議論が行われていたことが想像できる。

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