
“エリントニアン”のオリジナル・ナンバーに着目
Ellington Saxophone Encounters / Mark Masters Ensemble (Capri)
一見、デューク・エリントンのソングブックかと思われるかもしれない。しかしこれは類例のないエリントン関連のカヴァー曲集なのである。
エリントン楽団に在籍したサックス奏者のオリジナル・ナンバーに着目したアルバム・コンセプトが秀逸だ。ジョニー・ホッジス、ハリー・カーネイ、ポール・ゴンザルヴェス、ジミー・ハミルトン、ベン・ウェブスターと、優れたサックス奏者たちが同楽団に在籍して、その栄華を支えた。彼らに“エリントニアン”の呼称があるのは広く知られており、そこには楽団の一員であることの誇りと尊敬の意味が含まれている。本作は彼らがそれぞれのリーダー作に収録した自作曲を選曲の柱にしたものだ。
この選曲コンセプトを具体化するために選ばれた編成は、サックス5本+リズム・セクションのオクテット。トランペットやトロンボーンを避けたホーン・セクションは説得力がある。その核を担うのがゲイリー・スマリアン(bs)だ。リーダーのマーク・マスターズとスマリアンが親友ということも後押ししたようで、バリトンつながりで言うとカーネイの存在が大きい。1927年にエリントン楽団に入り、逝去する74年まで活躍したカーネイは、同楽団の最長メンバーであった(ちなみにエリントンが他界した74年5月の5ヵ月後に、カーネイもこの世を去っている)。
#1はホッジスのソロにヒントを得たエリントンが、2人の共作として発表したナンバー。ミディアム・テンポにあって、スマリアンの力強いバリトン・ソロが輝く。40年代半ば以降のモダン期を代表するエリントニアンの1人であるゴンザルヴェス作曲の#2は、『エリントニア・ムーズ&ブルース』(60年)が出典。テナーを演奏するジーン・チプリアーノは、御年83歳という大ヴェテランで、達者なソロを聴かせる。ハミルトン作曲の#5は、45年の夏にエリントンがプロモーションのための楽曲に選んだエピソードがある。70年代後半に世界一のビッグバンドに上り詰めた秋吉敏子=ルー・タバキンBBの一員だったゲイリー・フォスターのアルト・ソロは、本作のコンセプトと重ね合わせると感慨深い。ホッジスがエリントン楽団を抜けていた時期に当たる54年の同名作からのアップ・ナンバーが#6。数多くのビッグバンドから信頼を寄せられてきたピート・クリストリーブをフィーチャー。54年作『ミュージック・フォー・ラヴィング』からのウェブスター曲#9は、再びクリストリーブがソロを取り、偉大なテナー奏者へのオマージュを捧げる。本作はサックス陣ばかりでなく、ビル・カンリフ(p)、トム・ウォーリントン(b)、ジョー・ラバーベラ(ds)の西海岸トリオも好演。『クリフォード・ブラウン・プロジェクト』や『ポーギー&ベス』といった企画作に取り組んできたマスターズ。ここにまた1枚、新たな秀作が加わった。
【収録曲一覧】
1. Esquire Swank
2. The Line Up
3. LB Blues
4. We’re In Love Again
5. Ultra Blue
6. Used To Be Duke
7. Jeep’s Blues
8. Get Ready
9. Love’s Away
10. Rockin’ In Rhythm
11. Peaches
12. The Happening
マーク・マスターズ:Mark Masters(ldr,arr)
ゲイリー・スマリアン:Gary Smulyan(bs)
ゲイリー・フォスター:Gary Foster(as)
ピート・クリストリーブ:Pete Christlieb(ts)
2012年1月録音