林:詩を暗唱するんですか。
辻:小学生でも毎日古典的な詩を1編ずつ暗唱するんですよ。
林:リルケとか、そういう古典を?
辻:そう、コテコテの古典です。
林:それは素晴らしいですね。
辻:フランス人は大人も子どもも議論が大好きなんです。このあいだの大統領選の前なんか、買い物から帰ってきたら、家で息子と友達5人が輪になって「オランドはダメだった」「でもルペンはイヤだ」なんて議論していたんです。僕がちょっと遠くから「マクロンは?」と聞いたら、「マクロンなんてあんなの」だとか、みんな真剣に言うんですよ。厳しい意見をしっかり。
林:すごいな、日本の子どもとは次元が違う感じがする。辻さんが日本に帰ってこないわけがわかります。文化的な刺激が多いですもんね。
辻:いや、僕は正直言って帰りたいんです。だけど、息子はいま帰ると中途半端になっちゃう。言語や文化はどちらかに軸足を置かないと、文章も書けなくなるじゃないですか。彼はフランス語で育ってきたので、アイデンティティーを確立してから次の言語を、と思っています。
林:息子さん、日本に帰ってくると、あまりにも違うからびっくりするんじゃないですか。みんなスマホでゲームしてる子たちばかりだから。
辻:でも、ときどき日本で体験入学させると、「日本の子はやさしい」と言ってますよ。「日本で生まれて日本の学校に行きたかった」とも。
林:私から見ると、フランスの教育はとても素晴らしいと思うけど。