西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。帯津氏が、貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。
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【貝原益軒養生訓】(巻第三の27)
朝食いまだ消化せずんば、昼食すべからず。
点心(てんじん)などくらふべからず。
昼食いまだ消化せずんば、夜食すべからず。
前夜の宿食猶滞(なおとどこお)らば、翌朝食すべからず。
養生訓では食について多くのページを割いて語っていますが、そのなかで益軒が繰り返し説いているのが、「食べ過ぎるな」ということです。
「飲食は飢渇(きかつ)をやめんためなれば、飢渇だにやみなば其上にむさぼらず、ほしゐままにすべからず」(巻第三の7)、「珍美の食に対すとも、八、九分にてやむべし。十分に飽き満(みつる)るは後の禍(わざわい)あり。少しの間、欲をこらゆれば後の禍なし」(巻第三の8)
さらに「飯はよく人をやしなひ、又よく人を害す。故に飯はことに多食すべからず。常に食して宜しき分量を定むべし。飯を多くくらへば、脾胃(ひい)をやぶり、元気をふさぐ」(巻第三の11)と、ご飯についても食べる分量を決めて、多く食べないようにといましめています。最近は糖質制限ダイエットが流行っていて、炭水化物であるご飯の摂取を減らす人が増えていますが、益軒はすでにそれを説いていたわけです。
また「朝食いまだ消化せずんば、昼食すべからず。点心などくらふべからず。昼食いまだ消化せずんば、夜食すべからず」(巻第三の27)とも言っています。前の食事が消化されていないと感じたら、次の食事は抜いた方がいい、つまり、1日必ず3食食べる必要はないというのです。
ちなみに私は、朝食はコーヒーとこんぶ茶だけ。昼食は忙しい最中の食事ですから、ラーメン、タンメン、オムライスといった一皿ものをさっと食べます。朝、昼の食事は、義理で食べているようなものなのです。
大事なのは夕食です。以前にも書きましたが(4月21日号)、毎日の夕食は最後の晩餐だと思うことにしています。湯豆腐と旬の刺身で一杯やる。休肝日はありません。これが私にとって欠かせない時間なのです。
益軒は食後に運動をした方がいいとも言っています。
「わかき人は食後に弓を射(い)、鎗(やり)、太刀を習ひ、身をうごかし、歩行すべし。(中略)老人も其気体に応じ、少(すこし)労動すべし。案(おしまずき・ひじかけ)によりかかり、一処に久しく安座すべからず。気血を滞らしめ、飲食消化しがたし」(巻第三の51)
確かに食後に歩くのは悪くなく、糖尿病の改善に効くという意見もあります。
日本に健康太極拳を広めた楊名時先生は、食後はいつも「胃さん、腸さんありがとう」と言いながら、お腹をさすっていらっしゃいました。手を下げる時に息をはいて、上げる時に息を吸うという独特のマッサージです。この食後のお腹のマッサージはお勧めです。命の泉の丹田を動かすことで、消化をよくするだけでなく、気のめぐりを高めます。
※週刊朝日 2017年11月17日号