スピリチュアル・ネイチャー/ドナルド・ヴェガ
スピリチュアル・ネイチャー/ドナルド・ヴェガ
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ロン・カーター・トリオに在籍する正統派ピアニストの新作
Spiritual Nature / Donald Vega (Resonance)

 ヴェテランと見紛う風貌だが、実はこれがメジャー・デビュー作になる37歳のピアニスト。タミール・ヘンデルマン(p)の新作や、ビル・エヴァンス(p)の未発表作で話題の米Resonanceからのリリースに食指が動く。

 70年代半ばに中米ニカラグアで生まれた。幼少時からピアノを始め、おじと祖父から指導を受け、10代になる前に音楽院に入学。14歳でロサンゼルスに移住すると、実物のピアノがない環境を紙の鍵盤で練習した苦労人でもある。芸術学校ではビリー・ヒギンズに師事。ヴェガはヒギンズが著名ミュージシャンだと知らずに学んでいたが、ヒギンズはバド・パウエルやチャーリー・パーカーのテープをヴェガに与えたというから、まさに恩人だ。2人目の恩人はジャイアンツ・オブ・ジャズのベーシスト、アル・マッキボン。自身のトリオに抜擢し、NY行きのお膳立てをしてくれた。マンハッタン音楽院を経て、ジュリアードではケニー・バロンからジャズ・ピアノの奥義を吸収している。

 2008年にはルイス・ナッシュを含むトリオ作『Tomorrows』を自主制作。それから4年をはさんで、本作が実現したわけだ。連続参加のナッシュと、グラミー賞受賞で益々評価を高めるクリスチャン・マクブライドの2リズムを編成したのは、レーベルの周到なブッキングと言える。

 ヴェガは本作のために、5つのオリジナル曲を用意した。オープナーの#1はトランペット&テナーの2管カルテットによる、ストレート・アヘッドなナンバー。タイトル・ナンバーの#4ではボブ・シェパード(ts)とボブ・マクチェスニー(tb)が加わり、ヴェガはハービー・ハンコックの影響を感じさせるソロで、自身のバックボーンを明らかにする。

 カヴァー曲に関してはジャズメン・オリジナル、それもあまり多くのミュージシャンが取り上げていないようなナンバーに着目したのが興味深い。アンソニー・ウィルソンとルイス・ナッシュが小気味いいスウィング感を生み出すロン・カーター作曲の#2、北欧の深い森をイメージさせるニールス・ペデルセンの#6、オスカー・ピーターソンからの影響が1本の線で結ばれた小曽根真の#7。中米ジャマイカ出身であるモンティ・アレキサンダーは2曲あり、ヴァイオリンのクリスチャン・ホーズをフィーチャーした美旋律曲#3と、バンドのシャープなユニゾン・サウンドが痛快な#5は、米国移住で成功した大先輩からヴェガが多くを得ていることをはっきりと示す。ラストの名曲#12はまさに正調バラードの味わい。マルグリュー・ミラーから引き継いで、現在ロン・カーター・トリオに在籍する正統派ピアニストとして、今後の活躍を予想させる作品だ。

【収録曲一覧】
1. Scorpion
2. First Trip
3. River
4. Spiritual Nature
5. Accompong
6. Future Child
7. You Never Tell Me Anything
8. Contemplation
9. Etude Opus 8, #2
10. Falando De Amor-Tema De Amor
11. Child’s Play
12. I Remember Clifford

ドナルド・ヴェガ:Donald Vega(p)(allmusic.comへリンクします)
クリスチャン・マクブライド:Christian McBride(b)
ルイス・ナッシュ:Lewis Nash(ds)
アンソニー・ウィルソン:Anthony Wilson(g)

2012年2月カリフォルニア録音