津田大介(つだ・だいすけ)/1973年生まれ。ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ウェブ上の政治メディア「ポリタス」編集長。ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られる。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
図書館では人気作品や文庫など様々な本を貸し出してくれる(c)朝日新聞社
ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。文藝春秋社長の図書館への発言を取り上げる。
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大手出版社のトップが、図書館に“異例”のお願いをしたことが波紋を広げている。
10月13日、東京都渋谷区で開かれた「全国図書館大会」で文藝春秋の松井清人社長が講演し、全国から集まった公共図書館関係者を前に「文庫本の貸し出しをやめてもらいたい」と訴えた。
日本の出版業界は1996年をピークに年々縮小している。そんななか、コンテンツを再利用することで手堅く収益を下支えしてくれる文庫は、出版社にとって重要な存在だ。松井社長によれば、文庫の売り上げは同社の収益全体の3割強を占めており、3年前から毎年金額ベースで6%程度減り続けているという。彼らが文庫販売の機会を失うことに敏感になるのも、無理はないことなのだ。
しかし、この発言が報道されるとネット上では議論百出。「文庫が売れない理由はスマホとの競合に負けているからだ」など、娯楽の多様化が売り上げ低下の原因とみなすもの、「出版社が売れない文庫をすぐ絶版にするなかで、図書館が知のインフラを支えている」といった図書館が持つ本来の役割を強調するものまで、様々な批判が寄せられた。
同大会では、図書館の現状に詳しい根本彰慶応大学教授も講演している。そこでは複数の学術的な調査に基づくデータを提示しつつ、「図書館は出版物販売数に負の影響は与えていないとの結果が出されている」と説明があった。
ベストセラー作品が世間で注目されると、貸し出しの予約が一つの図書館に何百件も入る。このニーズに応えるため図書館側がベストセラーを1冊ではなく、複数購入することを「複本」という。図書館の中にはベストセラー本を20冊以上仕入れるようなところもあり、この行為が出版社を刺激している。
図書館側にも複本をする理由がある。行政から「数字」を求められたときに「貸出数」が一つの基準になるため、ベストセラーを複数購入して結果を出し、予算を削られないようにする側面もあるのだ。
解決策はないのか。一つのヒントになるのは雑誌の月額読み放題サービス「dマガジン」だ。月額400円で、登録されている雑誌が読み放題になる同サービスはスマホ世代を中心に爆発的に普及している。雑誌によっては、コンテンツを提供することで年間数千万~数億円の収入になっている。
図書館型(読み放題)の電子書籍サービスをユーザーに提供することで、人気の本を図書館で何カ月も待つよりすぐに読みたい読者のニーズをくみ上げ、収益につなげていく施策が必要ではないか。
いま、出版社に求められているのは、図書館を敵だと思うことではない。図書館が広げた読者の裾野を、デジタル技術を使って収益にどうつなげていくか真剣に考え、試行錯誤していくことだ。
※週刊朝日 2017年11月3日号