Family Tree
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進化し続ける長寿ユニットの最新形
Family Tree / Oregon (CAM Jazz)

 定期購読をされている皆様には、本稿が私のジャズ・ライフとリンクした情報提供の場だと薄々感じていらっしゃると思います。今回のテーマはアメリカのグループ、オレゴンです。

 ポール・ウィンター・コンソートのメンバーだった4人が、1970年に結成。ポール・マッキャンドレス、ラルフ・タウナー、グレン・ムーア、コリン・ウォルコットは、主楽器のポジションを得ながらマルチ奏者の才能を貢献することによって、類例のないユニットを築く成果を生んだ。タウナーとウォルコットが70年代にECMのレコーディング・アーティストになり、タウナーがそれを長期化したことが、オレゴンの長寿につながったことは否めないと思う。80年頃にジョージ・ウィンストンを代表格とするニューエイジが台頭した時、オレゴンはそのルーツだという論調もあった。しかしオレゴンは耳馴染みのいいサウンドを目指したわけではなく、即興演奏を主体とした高度な音楽性を誇る集団であり、ニューエイジとは一線を画した。個人的に最初にリアルタイムで嵌ったオレゴンの作品は、78年録音の『アウト・オブ・ザ・ウッズ』(78年)。楽器が森の中にあるイラストとアコースティック・サウンドがマッチして、音楽に多感な高校生の耳をとらえたのであった。

 オレゴンに転機が訪れたのは85年。ウォルコット(tabla,per)が他界したことだった。悲しみを乗り越えたバンドは、2年後にトリロク・グルトゥを迎えて活動を継続。90年代はオリジナル・メンバーのトリオだけで2枚を吹き込み、96年にマーク・ウォーカーがレギュラー・メンバーとして参加。現在に至る新たなオレゴンの歴史が始まる。

 オレゴンはなかなか来日公演が実現しないグループだった。ぼくは2008年5月にノルウェーのジャズ・フェスティヴァルを取材した時に、幸運にもオレゴンのライヴを観ることができて、感激した。そして同じ年の9月、遂にオレゴンの初来日公演が実現したのである。結成から38年が経っていた。終演後、マッキャンドレスに、何故こんなに時間がかかったのかと問うと、「誰も日本に呼んでくれなかったから」とジョーク交じりに答えてくれた。

 本作は全曲がメンバーのオリジナルで、7曲はタウナー個人の自作。オーボエとギターが躍動する#1、ドラム・セットをプレイするウォーカーの加入以降、オレゴン・サウンドに新たな魅力が備わったことを再認識できる#2、奥行きのある音響を生むシンセサイザーの使用が効果的な#4。即興的なインタールード#5、7、11を盛り込んで、プログラムにスパイスを加えたのもいい。ソプラノをフィーチャーした#12は、ウェザー・リポートを想起させて興味深い。進化し続ける長寿ユニットの最新形である。

【収録曲一覧】
1. Bibo Babo
2. Tern
3. The Hexagram
4. Creeper
5. Jurassic
6. Family Tree
7. Stritch
8. Mirror Pond
9. Moot
10. Julian
11. Max Alert
12. Carnival Express

ポール・マッキャンドレス:Paul McCandless(oboe,b-cl,ss,fl)
ラルフ・タウナー:Ralph Towner(g,p,syn)
グレン・ムーア:Glen Moore(b)
マーク・ウォーカー:Mark Walker(ds,per)

2012年4月 独ルートビヒスブルク録音

Oregon(allmusic.comへリンクします)

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