知的能力には問題ないのに、相手の気持ちをくみ取ることができず、周囲とトラブルを起こしてしまう。成人期にこうした問題を抱える「大人の発達障害」に対し、デイケアの効果、新薬登場が期待されている。
学校の成績は悪くなかったのに、就職すると同僚とコミュニケーションがとれなかったり、取引先との約束を忘れたりするなど、人間関係や仕事がうまくいかない。成人期にこうした問題を抱える人々には、自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など「発達障害」が疑われる場合がある。発達障害とは、これらの疾患の総称であり、単一の病気を指すものではない。
代表的なASDにはアスペルガー症候群があり、「空気が読めない」「接客ができない」「予定どおりにいかないとパニックになる」などの症状を示す一方、数字に強いといった長所がある。ADHDは、「忘れものが多い」「ケアレスミスを起こしやすい」といった不注意による失敗が目立つ。
学校や職場でいじめにあったり結婚や就労が難しかったりすることで生きづらさを感じ、二次的にうつ状態に陥ることも多い。2008年に昭和大学烏山病院で発達障害専門外来を開設した加藤進昌医師は、次のように指摘する。
「成人期の発達障害といっても、大人になってから発症するわけではありません。発達障害は、脳の機能の一部に生まれつきの異常があるために起こると考えられています。つまり、子どものころから症状はみられていたものの、知能や言葉の遅れがないことから成人期まで障害に気づかれなかった方々がほとんどです」
文部科学省が12年に全国の小中学生を対象におこなった調査によると、発達障害が疑われる生徒の割合は6.5%(ASD1.1%、ADHD3.1%)にのぼった。成人期の発達障害の割合は2~3%、ASDとADHDの症状が併存するケースが3~5割を占めるという報告もある。加藤医師らの専門外来でASDと診断された人々は男性が数倍多く、女性は比較的症状が軽い傾向があるという。
ASDの診断は、当事者に原則家族と同伴で受診してもらい、通知表なども参考に子どものころのエピソードを詳しく問診しておこなう。最近では、安静時に脳のどの領域の活動が高いかをファンクショナルMRI(機能的磁気共鳴断層撮影装置)で調べ、診断に役立てる研究が進んでいる。