人工透析はせずに 最初から腎移植が増加(※写真はイメージ)
人工透析はせずに 最初から腎移植が増加(※写真はイメージ)

 腎不全で失われた腎機能を代替する治療の大半は人工透析である。しかし、日常生活は制限され、体力低下の懸念もある。同じ代替治療でも腎移植なら、提供された健康な腎臓によって腎不全は解消され、ほぼ元の生活を取り戻せる。

 糖尿病や高血圧などによって腎機能が衰えると、やがて血液を浄化したり尿をつくったりする腎臓の機能が失われる。これが腎不全であり、末期になると腎臓の働きを代替する治療が必要になる。

 選択肢としては、人工透析(血液透析、腹膜透析)、腎移植がある。約90%の患者は人工透析をおこない、1年間に新たに始める人は全国で約4万人。一方、腎移植の件数は年間約1600件である。

 この大きな差の背景として、人工透析のほとんどを占める血液透析は、通院するだけのいわば“医師まかせ”で手軽に受けられるのに対して、腎移植は手術が必要なうえ、ドナー(臓器提供者)も確保しなければならないことなどが考えられている。ただ、血液透析では通常、1回4時間、1週間に3回の通院が必要になり、食事も制限される。これに対して腎移植の術後は、免疫抑制剤(後述)の服用を続け、検査のための通院は必要だが、日常生活にとくに制限はない。

 東京女子医科大学病院泌尿器科主任教授の田邉一成医師は言う。

「人工透析は腎臓の働きをカバーしているだけですが、腎移植なら健康な腎臓によって腎不全を根治できます。移植に伴う拒絶反応を抑える治療法の進歩などにより、全国平均でも5年後の生存率、移植した腎臓が機能している確率を示す生着率ともに90%を超えています。このような事後の生活や治療成績まで含め、医師からよく説明を受けたうえで選択することが大切です」

 以前は、まず人工透析を始め、それでも十分な効果が得られなかった場合に腎移植を検討、というパターンが一般的だった。しかし、2010年ごろから、人工透析を経ずに最初から腎移植に踏み切る症例が増加。今では腎移植の3分の1がそのケースだ。

 腎移植には、脳死や心停止による腎臓の提供を受ける「献腎移植」と、血縁者などの腎臓の一つをもらう「生体腎移植」があり、後者が9割ほどを占める。この場合、ドナーになれるのは、配偶者の親のきょうだいなども含まれ、意外と広範囲である。

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